長期修繕計画 入門編


『マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、適時適切な維持修繕を行うことが重要である。特に、経年による劣化に対応するため、あらかじめ長期修繕計画を策定し、必要な修繕積立金を積み立てておくことが必要である。』

(マンションの管理の適正化に関する指針:国土交通省告示第1288号より)


 建物・施設の傷みは経年と共に大きくなります。経年による建物・設備の傷みに対応するためには、定期的な「手入れ」が不可欠です。しかし、コンクリートで建設されているマンションは、はっきり言って、建設後10年間は修繕をほとんど必要としていません。建設後6年目頃から鉄部塗装などの僅かな費用の修繕が見込まれるのみです。
 そして、建設後10〜15年目頃に1回目の外壁等の大規模修繕を経験します。この時に、その必要とされる修繕費用が多額である事に驚き、貯えていた修繕積立金が大幅に不足することに初めて気付くマンション管理組合も多いのです。
 その後、20年目の前後に、様々な建物・設備の傷みから大規模修繕の波が押し寄せ、これらは25年〜35年の間にピークを迎えると考えられています。



 建物・施設の劣化は、経年と共に徐々に進行します。そして、ある時期を過ぎると急速な劣化が始まります。このある時期というのは、建物の部位、設備の種類により異なります。
 重要な点は、定期的な修繕費の出費に、修繕積立資金計画が対応出来るのか?という点にあります。修繕の必要な時期に資金不足などの理由により、安易に修繕工事を先送りすると、建物・設備の傷みを復旧するために、より大きな負担が必要となります。時には、その設備を丸ごと取替える事も必要となり、多額の出費を強いられる事も考えられます。適切な時期に適切な処置を行うのが最も経済的であると考えられます。



 つまり、長期修繕計画とは、マンションの共用部分の”快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るために”@何時頃、どの部位を、どのように修繕するのか?Aその修繕費用としていくら必要なのか?Bその修繕費用をどのように貯えるのか? を計画するものです。


@何時頃、どの部位を、どのように修繕するのか?

 修繕工事計画として作成されていて、建物の各部位、設備の項目毎に何時頃修繕が必要か計画されていますが、これは、「その計画されている時期に必ず修繕を実施しなければいけない。」ということではありません。

 そもそも、計画されている根拠は、他のマンションでもそのくらいの時期に修繕しているから、との理由ですので、当然ながら、マンション毎に修繕を必要とする時期は前後します。つまり、項目毎に修繕工事計画に計画されている時期が近づいてきたら、点検・調査して実際に何時実施すべきなのかを管理組合で検討する事が重要です。


Aその修繕費用としていくら必要なのか?

 修繕工事計画として概算費用を見込んで計画されています。これも当然のことですが、実施段階において、修繕費用は変動します。管理組合として管理会社任せにせず、主体的に活動して、実施体制の検討、数社の見積徴収などの作業を行うと、発注金額に競争原理が働いて無駄な出費を防げる事になります。


Bその修繕費用をどのように貯えるのか?

 修繕資金計画と言われるものですが、これがもっとも重要な事項です。

 一般的に、デベロッパー(分譲会社)等は、『マンション販売促進のため、住宅ローンの他に発生する費用(管理費、修繕積立金、駐車場使用料等)を安く見せかける傾向があるため、販売時の長期修繕計画の信憑性は極めて疑わしい傾向がある。』と言われています。特に、修繕工事計画と修繕資金計画が連動していない計画をマンション購入者に押し付けるような傾向があります。

 10年毎の大規模修繕工事の時期に「一時金徴収するような赤字計画」は、ダメ計画です。適切な長期修繕計画とは言えません。



長期修繕計画が適正か?否か?を簡易的にチェックする


 長期修繕計画書というのは、専門的な設備・施設名と、いろいろな金額が、小さな文字で並んでいるので、非常に難解なものです。そのマンションにある設備で、「計画から抜け落ちていた。」「金額の計算間違いをしていた。」ということが多く見受けられます。
(何故か?必要となる支出が過小となる間違いばかりです・・・・。分譲会社にとっては、必要な修繕積立金を過小に見せかけたほうが販売し易いという事情がありますので、必要な修繕積立金を過大に間違えるという事は、絶対にありません。このようなチェックには抜け目がありません。)


○計画期間は、築30年以上あるか?


『(長期修繕計画は)計画期間が25年程度以上であること。なお、新築時においては、計画期間を30年程度にすると、修繕のために必要な工事をほぼ網羅できることとなる。』
(マンション標準管理規約の第32条関係コメント:平成16年1月23日国土交通省住宅局住宅総合整備課マンション管理対策室発表)

 新築マンションの場合には、築30年目まで計画されている事が必要です。

 中古マンションにおいては、今後25年間程度の計画がされている事が必要です。


○途中で赤字になる計画になってはいないか?


 途中で、新たな一時金を必要とするような計画は、ダメ計画です。長期修繕計画とは言えません。

 家計に置き換えて考えると、よく理解できると思います。10年後に50万円を借金し、20年後にもさらに80万円を借金し、その後、毎年のように借金を重ねるような、自転車操業のダメ計画です。

 長期修繕計画とは、共用部分(マンション購入者全員の共有設備、施設)についての修繕計画です。専有部(個人所有部分)の修繕・リフォーム費用については、別途、費用負担が発生します。

 例えば、給水管・排水管については、耐用年数が20年〜30年ですが、共用部分(縦管)の修繕工事を実施する時期に専有部(横引管)の修繕工事も検討しなければいけません。この専有部の修繕費用は、個人所有物なので、各戸の所有者がその費用を負担しなければいけませんので、多額の一時負担が必要となります。また、マンション購入後20年間も経過すると、家電製品・家具の更新費用などで、多額の出費も予想されます。そのような時期に共用部の修繕費用として一時金として100万円を請求されると、ダブルパンチとなり、支払いが困難になり、滞納される方も出てきます。

 この滞納による資金不足を原因として修繕工事を先延ばしにすると、日常生活にも支障が出ますので、滞納による資金不足分を残りの皆さんで立替て修繕工事を実施することになります。しかし、滞納が解消されなければ、立替た費用は、そのまま滞納者以外の負担金となります。つまり、トリプルパンチとなりかねません。


○30年間で1戸当たり500万円の支出を計画しているか?(シンプルなマンションの場合)


 100戸のマンションの場合、500万円×100戸=5億円以上の支出を計画しているか。


※当然の事ですが、30年間で1戸当たり500万円の収入も計画されていなければなりません。支出と収入のバランスが重要です。


 この30年間で500万円というのは、これまでに修繕工事を経験してきた多くのマンションの実績から出されているデータです。この500万円という金額を最低ラインの目安にして下さい。



修繕積立金の目安は?


 長期修繕計画で説明した『修繕費用をどのように貯えるのか』という答えの半分が、この修繕積立金となります。答えの半分という意味は、「駐車場使用料」という収入が管理組合の会計に大きく影響しますので、この「駐車場使用料」が修繕積立金の収入として計上されるのか、管理費会計の収入に計上されるのかによって大きく変わります。

 シンプルな設備で、中規模(50戸〜100戸)マンションの大まかな目安として、30年間で1戸当たり500万円の支出と考えられています。つまり、500万円÷30年間÷12月=13,888円が、月額の負担額の目安となりますが、各戸から毎月13,888円を修繕積立金として負担してもらうと単純には言えません。駐車場使用料が修繕積立金の収入に計上されている場合は、その割合に応じてこの負担の減額が可能だからです。

 つまり、「年間の駐車場使用料からの修繕積立金充当額」÷戸数÷12月= @ と計算して、

 『 @ +毎月の修繕積立金負担額』を、目安の13,888円と比較しなければなりません。


 この駐車場使用料については、「駐車場使用料その他の敷地及び共用部分等に係る使用料は、それらの管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てる。」つまり、駐車場使用料は、修繕積立金として積み立てましょうというのが、国土交通省で標準としている考え方ですが、これを無視している販売会社が非常に多いのです。例えば、「駐車場使用料は、管理費に充当する。」とか、「駐車場使用料は、その7割を管理費に充当し、3割を修繕積立金として積み立てる。」などと管理規約を作成し、実際の会計予算も管理費会計に駐車場使用料を収入として計上しているマンションがほとんどです。新築のマンションは全て、この方式であると言っても過言ではありません。つまり、先程の目安とした月額13,888円を修繕積立金として毎月負担する必要が出てきます。

 小規模(40戸以下)マンションや、過大設備(温泉施設、プール、フィットネスルーム、機械式・立体式駐車場)のあるマンション、特殊な形状(華美なデザイナーズマンション、超高層マンションなど)の場合は、500万円に2割増、3割増で考えなければいけません。


○小規模(40戸以下)マンションの場合は、共同住宅としてのスケールメリットが出ないので必要な修繕費用は割り増しになります。


例;20戸のマンションの場合、30年間で1戸当たり700万円の支出が必要。
20戸のマンションの場合、700万円×20戸=1億4千万円以上の支出を計画しているか。


○過大設備(温泉施設、プール、フィットネスルーム、機械式・立体式駐車場)のあるマンションの場合は、その設備の修繕費用を上乗せした支出が必要。


例;機械式・立体式駐車場のある場合、車両1台分の20年間の維持費用+更新費用は、200万円と言われています。

全戸分の駐車設備が機械式・立体式の場合、500万円+200万円=700万円となります。
全戸の半分の駐車設備が機械式・立体式の場合は、500万円+100万円=600万円となります。


○特殊な形状(華美なデザイナーズマンション、超高層マンションなど)の場合、修繕工事が複雑になりますので、必要な修繕費用は割り増しになります。


例;100メートル以上の超高層マンションの場合、特殊な修繕工法が必要となり、多額の出費を必要とします。



修繕積立一時金(基金)を購入時に支払っているから安心?


 最近の新築マンションの場合、購入時に修繕積立一時金(基金)を徴収するケースが多いのですが、月々の徴収額が不足しているのをカムフラージュしているように思えます。つまり、マンション購入者に誤解を与え、月々必要な修繕積立金を少なく見せかけて勘違いを誘発しているように思えます。

 新築から数年間は修繕費用が必要ではありません。多額の修繕費用が必要となるのは、築10年目以降の大規模修繕工事の時です。それなのに、ただでさえマンション購入資金として多額の出費を強いられるマンション購入者に対して、10年以上も後に必要となる費用を支払わせるのは、不思議な事です。


 例;修繕積立基金を30万円徴収し、月々の修繕積立金が6,000円の場合は、


 この図のように、修繕積立一時金(基金)を30万円、毎月の修繕積立金を6,000円とした場合、築30年目の積立累計額は2,460,000円でしかありません。先程述べた「30年間で1戸当たり500万円」の目安と比較しても半額でしかありません。

 しかし、分譲会社の販売員は、「将来の負担に購入時から備えるので安心ですよ。」と言い、管理会社の社員は、初年度の管理組合の決算書を見せて、「修繕積立金は、1年間で○千万円(○百万円)も貯えることができました。」と言います。マンション購入者に誤解を与え、勘違いを誘発していませんか。

 先程の修繕費用の図と、この積立金の図を合体すると、築20年目には赤字に転落します。


 この図は、毎月の修繕積立金を6,000円とした場合ですので、6,000円以下の場合は、最初の大規模修繕工事の時(築10年頃)に赤字に転落します。

 また、この修繕費用は、シンプルな中規模マンションの場合を目安として作成しています。小規模マンションの場合、いろいろな施設が付加されているマンションの場合は、割り増しして考えなければいけません。


 修繕工事の他に、施設・設備のバリューアップという事も考えなければなりません。

 修繕計画は、単に新築時の状態へ復旧することを想定して作成されています。しかし、時代の変化や社会的要求により、新たな施設・設備を設置するという改良・改修という考え方です。


 例;エレベーターの新設。防犯カメラの設置。オートロック設備の導入。
   ロードヒーティング設備の導入。エントランスのバリアフリー化。 など

 20年前のマンションが新築時には導入(想定)されていなかったものが、居住者の要望として設置を求められたり、法律の改正などにより社会的に要求される施設・設備が出てくるという事も考えなければなりません。

 つまり、シンプルな中規模のマンションの場合でも、月額15,000円くらいを将来の修繕費用、改良・改修費用として月々負担する(管理組合に貯える)ことが必要と考えられます。

 当然の事ですが、小規模なマンション、過大設備のマンション、特殊な形状のマンションについては、2割増し、3割増しで考えなければならないことを忘れないで下さい。



 最近の傾向として、段階式に修繕積立金を値上げする計画にしているマンションが多くあります。

  @ 毎年、徴収額を1,000円アップ。
  A 5年毎に、2倍、3倍とアップ。

 この場合は、購入後に、確実に値上げを実行する事が重要です。その値上げを実行するのは、マンション購入者自身です。分譲会社、管理会社が黙っていても計画通りに実行してくれるわけではありません。マンション購入者が主体的になって確実に実施されるか?注意する事が必要です。

 計画では、毎年値上げの計画であったが、実際には値上げしていなくて、資金不足に陥り、修繕工事を実施出来ないでいるマンションもあります。


段階式値上げと修繕積立一時金(基金)の組み合わせ方式


 段階式値上げ方式と修繕積立一時金の組み合わせ方式を採用して、販売されているマンションが多数あります。何故、このような方式を採用しているのでしょう?

   住宅金融公庫の融資基準が、下記のようになっています。

修繕積立金の1住戸当たりの平均月額

新築〜5年未満・・・・6,000円

5年〜10年 ・・・・・・ 7,000円

10年〜17年・・・・・・ 9,000円

17年〜   ・・・・・・10,000円


 新築マンションが住宅金融公庫の融資を受ける為には、1住戸当たり6,000円以上の修繕積立金があることが必要です。しかし、実際には、6,000円以下の物件が住宅金融公庫の融資付物件として多数販売されています。
 ここに、修繕積立一時金(基金)の隠れた重要な役割があります。つまり、修繕積立一時金(基金)の60分の1を上乗せして、新築時の融資基準を満たす事が可能との例外的取り決めを利用(悪用?)しています。

  例;月額の修繕積立金 3,000円+3,000円(一時金180,000円÷60)=6,000円と計算されて、
     住宅金融公庫の融資基準に適合させています。

 高度経済成長時代、バブル経済時期のようなインフレ経済下においては、毎年、年収も上昇しているような時代でしたから、段階式積立金計画も納得のいくものです。
 しかし、現在のデフレ経済下においては、確実に昇給する事は見込めず、逆に年収が減少する事も考えなければならない状況です。収入は減少するのに、修繕積立金の徴収額が増加するような計画を、何故、分譲会社はマンション購入者に押し付けるのでしょう。

 段階式積立金計画を採用する説明として、修繕費用を必要とする時期にそのマンションを所有している(入居されている)方に負担してもらう考えであると言う方がいます。一見、間違った考えではなさそうにも思えるのですが、よく考えると、おかしくないですか?
 新築間もない新しい綺麗なマンションに住む方は、小額の金銭的負担で済ませるという考え方と、一方、修繕を必要とする、古いマンションに住む方は、多額の金銭を負担し、時代遅れとなった施設において、修繕工事に伴う不便も被ります。つまり、修繕費用が多額に発生する前に買い替えなさいとの考えが、根底にあるのでしょうか。

 マンションを「終の棲家」と考えて購入される方にとっては、段階式積立金計画というのは、まったくおかしな理屈に思われます。
 また、マンションを中古として売却することを考えている方にとっても、マンションの「修繕履歴」「修繕積立金の貯え額」というのは、売却価格の重要な評価項目となっています。ですから、新築時から負担してきた(管理組合が貯えた)修繕積立金が多額だから、マンションを売却する時に損をするという事はありません。売却を考えた時点において、ロクな修繕工事も実施されておらず、修繕積立金の貯えも無いマンションを購入しようという方が現れるのか疑問です。

 マンション完成時に、売れ残り住戸が発生した場合、売れ残り住戸の管理費、修繕積立金は分譲会社が負担しなければなりません
 最近の分譲マンションは供給過剰であると言われています。万が一、売れ残り住戸が発生した場合を考えると、修繕積立金が低い方が分譲会社にとっては費用負担が軽減出来るメリットがあります。しかも、修繕積立一時金については、既に購入された皆さんからは、当然の如く入居前に徴収するのに対し、売れ残り住戸の修繕積立一時金については、買主が現れるまで支払われません。分譲会社が売れ残り住戸の一時金を立替て支払ったということを聞いたことがありません。

 このように考えると、段階式値上げ方式と修繕積立一時金の組み合わせ方式による販売というのは、分譲会社にとっては、良いことづくめで、マンション購入者にとっては、何一つとして、良いことは無いように考えられます。

 もうひとつ、修繕積立一時金というのは、マンション入居直後の管理組合が自主的運営能力を備える前に多額の修繕積立金が貯えられるという事を意味しています。この大金の運用方法ですが、多くのマンションにおいて、分譲会社、または、管理会社が代理店となっている積立型の損害保険として運用されています。
 損害保険は管理組合の当然の業務ですから問題無いようにも思えるのですが、その契約内容が、代理店手数料を多額に収納できる(つまり、管理組合が損をする)ような契約内容になっている場合が多々見受けられます。考え過ぎでしょうか。



 この入門編では、マンションの問題点を多く指摘してみました。このような問題点が全く無いというマンションは、まずありません。このような問題を持っている(含んでいる)が、この程度であれば許容範囲とのマンションを選択して下さい。

 また、これらの問題に対しては、当然、改善しなければなりませんし、改善の方法もあります。しかし、それは、マンションへ入居して管理組合を結成してからの話となります。この改善については、続編にて説明します。



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