事例  管理委託契約等の改善の取り組み
             (北区33戸マンション管理組合の事例)


1.管理委託契約見直しに至った経緯

 2005年7月に、いわゆる財閥系分譲会社のマンションを購入した。当初、当該マンションの管理は分譲会社の子会社(財閥系)が請け負っていた。購入の際に、管理組合の予算書を見たところ、駐車場収入が管理費収入に全額組み込まれていた上(国交省の指針では、修繕積立金に繰り入れるのが望ましいとされている)、初年度の駐車場稼働率が100%で計算されていた。購入時点において、まだ三分の一の住戸が未契約もしくは未入居の状態であり、駐車場が100%で稼働することはあり得ない。「このようないい加減な収入計画で本当に大丈夫なのだろうか?」という素朴な疑問をもった。

 また、以前NHKで、「分譲当初の管理委託契約は一方的に管理会社に有利な価格設定になっていることが多く、管理組合主導でしっかり見直す必要がある」という番組を見た覚えがあった。そこで、自分のマンションも一度チェックする必要があるのではないかと考え、営業マンにこれらの疑問をぶつけたところ、「この予算書はあくまでも案であって、管理組合設立総会において是正の提案をしていただけます」とのことであった。そこで、1)当時9月予定とされていた総会に私を参加させること(区分所有者であるから当然参加できる)、2)万一総会が7月30日の私の入居よりも前になる(契約時すでに7月であり、営業マンからは「それは考えにくい」と言われたが)場合も、きちんと連絡して参加させること、以上2点を約束させ、売買契約を締結した。

 その後、支払いと引き渡しが終わり、7月30日付けで入居し、生活を始めた。しかし、一向に総会の連絡はなく、同年11月に全戸完売という話を聞いた。「いくらなんでも遅すぎる」と考え、管理会社に催促の電話を入れた。すると驚いたことに、設立総会は私の入居の一日前である、7月29日に既に開催されており、理事長以下役員の選出も終了し、組合は設立されているとのことであった。私は驚愕し、管理会社に説明を求めたところ、「29日の段階で貴殿の入居は知らなかった。連絡ミスのようである。しかし、29日時点では貴殿は正確には区分所有者ではなく、そもそも連絡の義務はない。我々の知ったことではない。」との完全な開き直りであった。全く納得できないため、さらに以下の通り質問をぶっけた。

(1) 7月上旬の契約締結段階で9月開催予定としていた総会の日程を、急遽私の入居一日前である29日に変更した経緯が不自然すぎる。営業マンも、「遅れることはあっても、通常早まることは考えにくい」と言っていた。急遽前倒しした経緯について、合理的で納得のできる説明がほしい。

(2) 「私の入居を知らなかった」というのはおかしい。7月中旬に管理会社自身から、修繕積立基金の請求が私宛に来ており、振り込みの確認等もそちらで行っているはずである。さらに、30日の入居の際に、駐車場の鍵を管理会社から受け取っており、「入居を知らなかった」という言い訳は通らない。

(3) 8月中旬に、設立総会の議事録を全戸に配ったとのことであるが、私の所には配布されていない。11月になって、こちらから電話してはじめて総会があったことを知った。なぜ私の所にだけ議事録の配布がなされていないのか、納得のいく説明がほしい。

 しかし、基本的に「知らぬ存ぜぬ」の一点張りで、前倒しの理由も「担当者の夏休みの関係」など意味不明な説明ばかりで合理的な説明は一切なされず、管理会社に話をしても埒があかないと判断。販売時の営業マンに「入居前でも総会に参加させる」という約束の存在を確認し、認めさせた上で、分譲会社に債務不履行責任を指摘した。売買契約の有効性を争うと通告したところ、分譲会社から謝罪があり、一転して管理会社からも、本社の営業部長が東京からやってきて謝罪があった。管理会社からは、「迷惑料支払い」等の提案もあったが、そんな提案は拒否し、筋道通り設立総会のやり直しを要求した。しかし、「場合によっては7月29日までさかのぼって値下げの対応をするので、理事会に世話人として参加していただき、そこで是正を訴えてもらう形で何とかお願いしたい。」とのことであった。

 若干不本意ではあったものの、「結果的に不適切な契約が是正されればそれでよい」と考え直し、世話人として理事会に参加することとなった。この一連の経過の中で、インターネットで情報を収集していたところ、偶然「NPO法人北海道マンション管理問題支援ネット」のことを知り、早速管理組合会計の経営診断をお願いした。その後も同NPOからは、一貫して的確かつ有益な情報提供をいただいた。管理関係の知識がない我々素人は、往々にして管理会社に丸め込まれがちになってしまう(例えば、エレベーターの保守業務料の相場など、素人には知りようがない)が、第三者の立場から、管理委託契約の相場や各種メンテナンス契約の相場等の正確な情報提供をいただけたため、その後の交渉も有利に進めることができた。


2.当初管理委託契約の問題点(適宜、対照表を参照)

(1) 管理委託契約の価格が高すぎること(NPOの経営診断により、事務管理業務費は、33戸のマンションでは1ヶ月1戸当たり相場1,400円程度の所、当マンションでは2,200円という相場の約6割増の価格設定であることが分かった。その他にも、設備管理業務料という、全く必要のない支出項目があったり、管理員業務料についても、管理員の賃金を極めて低く設定した上で会社の利益を大きく取ったりと、問題山積であることが判明した)。

(2) 管理委託契約の仕様について、国土交通省の標準管理規約と比較したところ、以下の5点で改善の必要があることが分かった。

1) 会計方式について、原則方式を採用すべきである所、収納代行方式をとっている点

2) 未納金(滞納金)の徴収を6ヶ月間督促するのみとし、その後は責任を持たないとしている点

3) 管理員が休む際の代行管理員の派遣義務を免除している点

4) 管理員の賃金が低く設定されている点

5) 清掃業務の範囲が狭く、設備点検の回数が少ない点

(3) 保守業務料についても、相場の4割増、5割増の価格設定がざらであった。

(4) 火災保険料等の共用部の保険料についても、割高との診断を受けた。

(5) 駐車場使用料収入が全額管理費に組み込まれていた関係で、修繕積立金の徴収計画が無理のある形になっていた(当初5年間は1ヶ月約9,000円の徴収であるものの、段階的に引き上げられ、17年目からは1ヶ月約23,000円という高額な徴収計画となっている。17年後、居住者の高齢化が進み、年金生活者の増加が見込まれる中で、このような高額な修繕積立金徴収は非現実的である。)。


3.是正活動

 上記問題を理事会で説明し、「私も、もしよければ世話人として理事会活動に参加し自ら汗をかく用意がある」と伝えたところ、理事長以下全役員が問題を共有して下さり、私を世話人として迎えた上で、管理会社と交渉し契約是正の取り組みを始めることとなった。
 まず、(3)各種保守業務について、管理会社任せにせず、組合が直接競争入札を行い、業者を選定することとした。上記NPOから優良な業者を数社紹介していただき、見積書の提出を依頼し、競争入札を行った(見積もりを依頼する以外、特に我々側にすることはない。出てきた見積書を開封して比較し、業者を選定するだけである)。その結果、一気に半額近く下がったものもあり、もともとの価格設定の異常さが実証されることとなった(是正結果は、対照表を参照)。結果的に、年間50万円以上経費を削減することに成功した。
 (4)の各種保険料については、NPOに紹介いただいた代理店に見積もりを依頼したところ、補償額が2億4,750万円から、2億5,000万円に増額された(すなわち、内容がよくなった)上、年間20万円程度だった保険料を年間16万円程度に下げることが出来た。

 (1)については、設備管理業務料を全額削除したり、定期清掃料を割り引いたりと、一定の成果はあった(年間約40万円削減)ものの、肝心の事務管理業務料については、月一戸当たり2,000円とし、それ以上は一銭たりとも下げないとのことであった。「これ以上下げろというのであれば、会社を変えていただきたい。」とのことであったため、その言葉の通り管理会社についても競争入札を行うこととした。具体的には、管理の質の低下を招かないようにするため、NPOから優良な管理会社を5社紹介してもらうとともに、NPOのアドバイスもいただきながら現在の管理委託契約仕様書を参照し、組合側で統一の仕様書(業務内容、例えば掃除の範囲、回数等を細かく定めたもの)を作成した。その際、上記(2)の問題点を是正し、

1) 会計方式は原則方式を採用する、

2) 滞納金の徴収には、管理会社が最後まで責任を持って対応することとする、

3) 管理員が休む際は代行管理員の派遣を義務づける、

4) 管理員のモチベーションを高めるため、管理会社は管理員に月額72,000円(時給900円程度)以上賃金を支払うこととする、

5) 清掃の範囲を広げるとともに、設備点検の回数を年6回から年12回に変更する、等改めた。

 入札の結果、一社を除くすべての会社が現契約よりも安い価格で入札し、もともとの価格設定の異常さが再度実証された。その中から、当時の財閥系管理会社、および、入札価格が安かった順に三社を選定し、総会に先立って全組合員向けの説明会を実施した。

 その場に上記四社の担当者を呼び、20分間ずつプレゼンテーションを行ってもらい、その後説明会の参加者全員で意見交換を行った。それらの意見を踏まえ理事会で検討した結果、入札金額が最も高い上に上記の仕様変更に対応できないとした財閥系前管理会社には委託できないとの判断に至った。入札に参加した会社の中から独立系管理会社S社を選定し、総会に提案することとした。S社の入札価格は最低価格ではなかったものの、担当者の誠実な姿勢に信頼が持てたことに加えて、毎月十数頁にわたる管理業務報告書を理事会に提出する等の付加サービスが優れていた(財閥系前管理会社からは、理事会への報告書はおろかレジュメの提出等も一切なされなかった)ことが決め手となった。その後、総会で理事会の提案が承認され、管理会社の変更手続きを進めた。その結果、管理委託契約の内容が格段に良くなった上、さらに年間30万円以上の経費節減に成功した。


4.成果

 当初の分譲会社・管理会社の不手際を契機として、理事会が中心となって是正活動に取り組んだ結果、管理・保守業務費の年間総支出約400万円のうち、年間120万円以上を節減することに成功した。
 管理委託契約の内容も著しく改善された上、清掃業務等の仕事内容も前管理会社より格段に丁寧になっている。理事会支援業務も、極めて迅速かつきめ細かい対応となり、あまりの違いに理事会役員一同驚いている。(5)の修繕費の問題はこれから検討しなければならないが、以上の取り組みの他にも、電灯点灯箇所・時間の間引きやNPOの灯油共同購入の利用(市販価格よりも1リットルあたり、2円〜5円程度安く購入できる)により、光熱費の節減にも取り組んでおり、今後これらの成果を踏まえて修繕積立金への余剰金の組み入れを実施し、将来の負担を減らすべく鋭意努力中である。

 ちなみに、第一期通常総会で財閥系前管理会社による収支報告がなされたが、当初の懸念通り駐車場収入は予算比50万円以上不足することとなり、灯油の予想外の値上がりに伴うロードヒーティング費支出増と相まって、赤字決算になりかねない状態であった。実際には、第一期の保守業務等の見直しにより90万円以上の経費節減が実現していたため赤字決算は避けられたが、もし管理会社に任せっきりにしていたならば、赤字決算はほぼ確実であった。また、第一期における区分所有者からの専有部改造申請に関する対応について、財閥系前管理会社からの提案が管理規約に違反する内容であったことが発覚したり、前管理会社が作成した管理規約について、区分所有法に違反する条項が発見されたりと、信じられないずさんな仕事ぶりが次々と明らかになっている。現在、現独立系管理会社の的確なアドバイスのもと、管理規約を根本的に改正する作業に取り組んでいる。

 以上の事実から明らかなように、「大手の会社だから」と盲目的に分譲時の管理会社を信じ切り、自ら判断を行わずに任せっきりにしていると、後で泣きを見ることになる。赤字になったり、修繕積立金が不足したりしても、管理会社は値上げや一時金の徴収を提案するだけのことであり、一切責任は取ってくれない(自腹を切って不足分を補填してくれたりはしない)。

 今回の一連の経験を通して、「自分の財産は自分で守る」という当たり前のことを当たり前に行うことの重要性を痛感しています。
 その際、各種業務料の相場や管理委託契約の内容など、素人単独では判断の難しい問題にぶつかりますが、当NPOのような、利害関係のない第三者の情報を積極的に利用することにより、管理会社と対等に話し合うことが可能となります。入札結果を見ても分かるとおり、これまでの経験に基づく当NPOの診断は驚くほど正確なものでした(当NPOは各社の入札行為自体には一切関わっていない)。むしろ「専門家」であるはずの前管理会社の情報は、ほとんどが不正確もしくは嘘に近いものでした。「これ以上は無理」、「よそのマンションも同じ」といった前管理会社の消極的な発言は、実際に競争入札を行う中で次々と覆されていき、そのたびに不信感が高まり、結果的に管理会社の変更につながることとなりました。分譲マンションの管理業務については、不思議なことに未だ大手神話が根強いようであり、問題を認識しないまま不適切な契約関係を続けている管理組合も多いと聞きます。私たちの取り組みの経験をお伝えすることで、これら不適切な契約関係を一件でも改善することにつながればと願っています。


※ 管理委託契約の是正結果一覧

  分譲時の契約金額 是正後の契約金額 NPO診断額
事務管理業務料 871,200 475,200 594,000
管理員業務料 1,368,000 1,146,000 1,140,000
定期清掃業務料 198,000 120,000 75,000
設備管理業務料 66,000 0 0
機械監視業務料 252,000 132,000 132,000
雑排水管洗浄業務料 99,600 66,000 66,000
特殊建築物定期報告業務料 20,400 13,333 15,000
エレベーター保守業務料 582,000 504,000 456,000
消防設備点検業務料 180,000 120,000 120,000
建築設備定期報告業務料 13,200 13,200 15,000
機械駐車設備保守業務料 201,600 160,000 115,200
増圧給水ポンプ保守業務料 60,000
 
0
(管理員業務とする)
0
(管理員業務とする)
地下オイルタンク検査業務料 60,000
 
0
(3年目に競争入札)
0
(当初3年間不要)
ロードヒーティング保守業務料 48,000
 
0
(管理員業務とする)
0
(不要)
4,020,000 2,749,733 2,728,200

※定期清掃業務料については、分譲時の契約では、年2回実施で132,000円であり、NPOの診断では年4回で100,000円であったが、是正後の仕様では、年3回実施としたため、ここでは比較の関係上、分譲時の契約金額とNPOの診断額も3回分に換算し、それぞれ198,000円、75,000円としてある。雑排水管洗浄業務料および特殊建物定期報告業務料は、それぞれ2年毎、3年毎の実施であり、本来の予算書では実施の年にそれぞれ132,000円、40,000円を計上すべき所であるが、ここでは比較のため、1年毎に必要な額に換算して計上している。


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