基 調 報 告  「マンション管理組合の滞納の現状」

はじめに

 この度、マンション管理セミナーで戸別の問題である滞納問題を取り上げた背景には現在の経済不況下のもと滞納の深刻な現状があります。この現状を認識し債権の確保に努力している管理組合と、この現実を放置している管理組合があり、先の最高裁判例が示す5年の期限を過ぎているケースも存在し、管理組合の貴重な財産が失われつつあります。

 言うまでもなく、管理組合は財産管理団体として、その目的を達成するために管理規約を制定し、組合員から管理費と修繕積立金等の負担金を徴収しているところです。

 その目的を達成すべき財源が、管理組合の無為無策で法的に失われていく現実を直視し、改めて管理組合の滞納問題の解消について皆さんと共に考えてみたいと思います。

どのような事例が発生しているのか

・築後10年の管理組合、入居後2年間は納入していたが、現在も区分所有者であり入居している。その後8年間滞納が続いていて、滞納総額163万円となっている。この間、管理組合は特別対策を立てず管理会社に任せ放置していた。理事会の認識は管理会社が回収を実行してくれるものと思っていた。

・築後16年の管理組合、滞納12年間の組合員が家族共々行き先不明になった。しかし、この間管理組合が機能せず、管理会社にお任せ状態。築後14年目の理事会が管理会社の債務不履行問題に気が付き、関係書類を調査する中で長期滞納者の存在を認識。追跡調査する中で「区分所有者が死亡、配偶者と子供は離婚」という現実に直面した。滞納総額は210万円。

・築後8年の管理組合、区分所有者が入居せず、購入当時から賃貸マンションとして第三者に貸している。当初から時々滞納があったが、遅れながらも納入していた。3年前から長期滞納が継続してきた。理事会は管理会社にお任せ状態で、特別な徴収対策を立ててこなかった。区分所有者は本人の資産形成目的で所有したもので、賃貸入居者は継続しおり、管理規約等の整備により入居者から徴収する方法を講ずれば解消できたものと考えられる。現在、滞納額は36万円程度であり、少額裁判を提訴する予定で取り組んでいる。

・築後7年の管理組合、区分所有者は夜逃げのような状態で転居。滞納期間は3年間、59万円程度の滞納額。行き先が不明で理事会は対策に頭を抱えていたところ、住宅金融公庫が当該物件を競売にかけるために、裁判所の執行官が調査にきた。今年中に競売に付されるという情報が得られて、理事会は一応安心した。

・築後3年目の管理組合、区分所有者は地方に出稼ぎに出て、奥さんと子供の住まい。ある日曜日の午後、管理員の不在中突然管理員にも届けず、転居してしまった。ここから滞納が始まる。6カ月後ある金融機関の社員が管理組合に区分所有者の転出先を調査に訪れる。
 それから、1年後に住宅金融公庫が競売に付して、特定承継人が決定され、滞納は全て解消された。

・築後9年目の管理組合、区分所有者が当初から入居せず賃貸マンションとして、貸し出ししていた。3年目までは滞納は無かったが、4年目から目立つようになってきた。当該管理組合も滞納問題は全て管理会社に任せており、理事会として対策は立ててこなかった。その後、管理会社の債務不履行等が発見し、別の管理会社と管理委託契約を締結する。その時点で凡そ、4年間で115万円の滞納がある。当該管理組合も管理規約を整備して、区分所有者が滞納した場合の措置を講じておくべきであった。法的手続きを取らない限り、時効が発生する時期が迫っている。

・築後23年の管理組合、これまでの所有者が滞納額30数万円を抱えたままに、不動産業者に仲介を依頼した。不動産業者は、これまでの所有者から滞納問題を放置した状態で仲介したが、特定承継人へは滞納について何ら触れずに売買した。従って、特定継承人は「私は支払う理由がないので不動産業者へ請求してくれ」の一点張りで、当時の管理会社はそのまま放置してしまっていた。その後管理会社も変更になり、理事会として改めて対策を取り、当該不動産業者に対して、滞納金の請求を実行したが誠意が見られないために弁護士に依頼し、裁判所に提訴した。その結果、和解が成立し不動産業者が支払うことになった。そのために管理組合理事会は提訴を取り下げた。しかし、その後不動産業者は一向に支払を履行せず、徴収不能になった。また、提訴を取り下げたので再び提訴はできないこととなった。

管理組合の対応と課題

  以上のような、氷山の一角と言うべき滞納問題の現実があります。これまでの理事会がどのような滞納対策を行っていたのか、その対応の仕方が滞納金の戸数と金額に現れてくるものであります。しかし、先にも触れたように今日の社会的、経済的状況もあり、非常に複雑で困難な問題であります。

 ここで考えてみたいことの第一点は管理会社に管理組合の負担金の徴収を最後まで委託していると勘違いしている理事会が多いことです。ここから「滞納問題」が発生していると言っても過言でありません。
 管理委託契約書には滞納金の徴収を最後まで法的手段も含めて、取り決めしている管理組合は恐らく少ないでしょう。今度、国土交通省から示された「標準管理委託契約書」にも、滞納期間3カ月は管理会社が電話や面接での督促は明記してありますが、3カ月以上になれば管理会社の手から離れて、管理組合理事会が対処しなければならなくなっております。  従いまして、これまでの滞納の多くは管理組合が「管理会社が実行してくれるものだと勝手に思って」対策を講ぜず放置していたものであります。
 管理委託契約を締結している管理組合の中には「毎月、管理費等の滞納状況を、管理組合に報告すること。組合員が管理費等を滞納したときは、支払期限後3月の間は電話若しくは自宅訪問又は督促状の方法により、その支払の督促を行う。この間の督促業務の内容は毎月文書により報告し、承認を受けること。以上の方法により督促しても組合員がなお、滞納管理費等を支払わないときは、管理組合と協議し、法的対応等を行う。その際の諸費用は管理組合の負担とする」と明記して、毎月の理事会で真剣に討議し、実行している管理組合も少しづつではありますが存在しつつあります。

 第二点は理事会として具体的滞納対策についてであります。私どもマンションネットが提唱しているものとして、前項にもありますように管理委託契約に管理会社への委任条項を明記して、毎月必ず実態報告を求めて、滞納の実態を管理組合理事会の日常業務にすることです。ある管理組合は3月の決算時期に8名の滞納者と36万円の滞納があり、これまでの対策不十分を反省して、理事会あげて取り組み4月には滞納を一掃しました。その後、毎月管理会社に報告を求めて、実態を把握して、翌月には必ず回収する方針を決定し進めています。
 このように、滞納問題は理事会の姿勢だけでは解決できませんが、理事会の基本的業務と位置づけることによって、無駄な滞納は回避できます。

 第三点は笹森先生の講演で明らかにされますが、理事会で頑張っても整理できない社会的条件があります。その場合、債権確保を放置すれば理事会の責任であり、最後は法的手段によって、時効の中断の方策を探り、「期限が来ましたから時効でしょうがない」などという無責任な方策はこの際止めなければなりません。

 第四点については問題提起として、皆さんに考えてもらいたい問題です。ある管理組合での事例です。滞納が5カ月発生し、大凡13万円焦げ付いたそうです。理事会は何度も請求をしたそうですが、支払ってくれなかった。理事長は最後通告し「今月中に全額支払ってくれない場合は規約に基づき、水道を止めます」と通告しました。該当者は「今、全額は支払われません。3万円だけですが受け取ってください」とお願いしましたが、理事長はこれを断り、実力行使を実行しました。
 このご家庭は子供さんがおり、毎日の炊事、洗濯、入浴、排便でどのような対応をされたのでしょうか。この話しを聞いたとき、息が詰まりそうになりました。しかし、理事長は全額持参するまで、水道の開栓はしなかったそうです。
 この問題は決まりを守ることが重要か、或いは、生活権の擁護の問題まで発展することになります。マンションの管理組合は管理規約に基づく運営と、その管理組合が住民同士の健やかなコミュニィテーを形成して、仲良暮らすことも充分考慮しなければならないでしょう。
 その観点から見たとき、当該問題には暮らしの連帯とは何か、決まりとは何か、と、問わなければならないでしょう。この事例のマンションで生活された、子供たちはマンションとは大変住みづらい住居と認識したのではないでしょうか。この問題を教訓として、「マンションの新しい住まい」とは何か、今後の課題にしたいものです。

まとめ

 この不況下で今後もますます、滞納問題が発生する状況でありますが、管理組合はこの問題を無視して業務を進めることはできません。先にも示した事例は一部であり、おそらく何処にも相談できなくて悩んでいる理事会、滞納があるが未だに問題意識をもっていない理事会、滞納を欠損金で処理している理事会、多種多様な状況に置かれている管理組合の現状はマンション問題の象徴的存在となりつつあります。
 管理組合理事会の当事者能力の開発と造成は永遠の課題にしてはなりません。今後も、様々な問題が提起されることと思いますが、管理組合間のネットワークを広げて問題解決に当たりたいものです。

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