基調報告「管理委託契約の締結と解除の実務」
はじめに
マンションの管理委託契約が契約通り履行されない問題が生じて、相談にこられる方が引きつづき増えている。あるいは、別の相談を受けている中で理事会が認識してないけれど「管理会社の債務不履行」が発見された例が幾つもある。
また、「様々な情報を収集する中で当該管理組合が締結している、管理委託契約の価格が適正な価格を大幅に上回っているらしい、是正できるものか」など管理委託契約をめぐる問題は後を断たない現状である。
つい先日のこと、ある管理組合が契約していた管理会社を債務不履行として損害賠償を請求する形で提訴し、その判決が札幌地裁であり原告が敗訴した。その理由は様々あるが、裁判を傍聴していた一人として、争点にしたそれぞれの事実について証拠に基づく原告立証に多少問題があったのではないだろうか。
今回の地裁判決から管理組合の管理・運営の教訓を学び、今後このような管理会社の債務不履行を発生させないためにも理事会の当事者能力を一層開発して自力で問題解決することこそ重要と言える。
マンション管理の形態
管理組合が共用部分の管理を行う方式として「一括委託方法」と「個別委託(発注)方法」とに仕分けできる。「一括委託方式とは管理組合が行う管理運営業務を全て管理会社に委託する方法」であり、委託形態の主流である。また、「個別委託方式は管理の業務毎に業者を選別してそれぞれ契約する方法」であり、無駄な経費を削減する方策の一つでもある。
また、次のようにも分類できる。
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委 託 方 式 |
委 託 業 務 等 の 特 微 |
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管理会社に全ての業務を委託する |
全て管理会社が業務を執り行うので理事会に取っては煩わしい負担はない。しかし、多くの事例が示しているように適正価格を大幅に上回る契約が締結されている。管理会社にとってはこの委託方式が最も望ましく、管理組合にとっては直ちに是正すべきものである。 |
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事務管理業務・管理員業務等は管理会社に委託し、その他の設備等のメンテナンスは個別に委託する |
基幹事務を中心とした事務管理業務、管理員業務、日常清掃業務等は管理会社に委託し、エレベーターの保守・点検業務等の設備関係のメンテナンス業務は関係業者と直接するために、「全てお任せ方式」と比較すれば契約金額は相対的に適正に是正できる。無駄な経費の支出を行わないために理事会は情報の収集と専門的な実務の拾得が求められる。一括委託方式を改めて、この方式に移行する傾向が増加しつつある。「組合員の共同の利益を確保」するのであれば、最低限これらの方式を取り入れるべきである。 |
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事務管理業務は管理組合が行い、管理員も直接組合が雇用し、その他の設備等メンテナンスは個別に委託する。 |
この方式を管理組合の「自主管理」と一般に称している。この方式も「全てお任せ方式」と比較すれば一般的に管理経費を安くあげることができる。しかし、この方式を実施するためには多くの情報の収集と理事会の研鑽が欠かせない。また、理事会が24時間、具体的な管理の責任を課せられ心理的にも物理的にもその重圧は大きい。この方式を実施するためには常駐の理事が複数以上必要と言われている。 |
管理委託契約等の検討すべき課題
管理会社と管理業務を締結する際、留意すべきこととしてつぎのようなものがある。また、締結した業務が履行されているか理事会として点検できる能力を保持することも重要である。(マンション標準管理委託契約書<資料として添付済み>を原則踏襲しているが、細部についてより具体化した特色を持つものである)
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検討すべき課題 |
説 明 項 目 |
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管理委託「業務の仕様」を明らかにして、業務委託の見積もり合わせ、及び競争入札を行う |
この度改正された「標準管理委託契約書」等を参考にしながら、当該管理組合が委託する管理の仕事の内容を確定すること。見積もり合わせ及び競争入札は予定している業者の公表は避け、談合ができない体制にすること。また、公正を担保するために、入札書、見積書は封書に入れ密封して提出させ、理事会で開封すべきである。 |
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会計・経理のシステムを明示し後日問題が発生しないようにする |
委託管理仕様の中で明らかにすべきことであるが、会計処理は「原則方式」にすべきである。管理組合の収入、支出が目的別に会計処理される(預金通帳も会計別にすること)べきであり、収納代行方式や支払一任方式は絶対拒否すべきである(管理組合が認めなければこの方法は絶対導入できない)更に収入は毎月収入明細報告書を提出させ、預金通帳に入金された金額を把握し、支出は支出伺い書等の書類を整えて理事会の決裁を求めて行うこととする。また、公益法人会計を行うために、予算主義、目的別会計等の会計原則を要求し契約書に明示しなければならない。 予算がないのに支出している例もある。同会計で処理できないものまで含んでいる例もある。 |
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銀行預金通帳と理事長印は区別して保管する |
通常、理事長が理事長職印を保持し、管理会社に通帳を保管させ、毎月一回定例会計監査等のチェックを行うようにすべきである。 |
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管理員業務は管理会社の中心業務であり、管理員の業務に対する姿勢が委託業務を左右する |
業務の見積もり・入札の際、明らかにすべきこととして、管理員及び清掃員の月額報酬等を管理組合が明示すること。更に契約書には「契約した月額報酬を支払っていない場合は債務不履行として契約を解除する」とする。これは管理会社による不当な低賃金政策を防止することと管理員や清掃員の労働意欲を高め、良質な管理業務を達成することになる。 |
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管理員の教育体制ができでいるか、また、病気等休暇の交代要員が確保されていること |
管理員の行うべき教育を省略して業務に就かせている会社が見受けられる。管理会社の顔と言うべき管理員業務を習熟させない配置は断ること。住民とトラブルを起こす管理員も見受けられるが、確かな教育が受けていない場合は管理会社に是正を要求すべきである。 |
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建物・設備等の維持管理について専門資格者が確保されて対応できるか |
管理員の目視点検に任せて、一級建築士等の有資格者の設備等の点検業務を怠っているケースが目に付く。この点検は建物及び設備を長期に維持し保存するために欠くことができないものと言える。仕様に明示して業務を履行させること。 |
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緊急時の処理体制が整備されていること |
水漏れ、火災など緊急時の対応が管理会社として問われている。24時間の人的配置及び関係業者への対応ができているか。契約書に明記すべである。 |
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法律等のフォローができるか |
マンションの関係法令について適切な対応ができるか。滞納者への法的処理等も含めた事項も管理組合として重要な分野になる。特に、法改正等がこのところ行われているため、重要な分野である。 |
無駄を省く管理委託契約の核心
本題に入る前に今一度確認したいことがある。
マンション管理組合の目的は言うまでもなく「マンションの建物及び設備を長期に維持保存すること」と「マンションの住環境を守って住みやすいコミニュテイーを形成すること」にある。この目的を実現するために「組合員から委任された理事会」は「組合員の共同の利益を増進させる」責任が課せられている。
また、管理組合は独自の管理規約と役員、組合財産を有する社団と規定され、公益法人に準ずる団体とされている。従って、任意に粗織された、何時でも解散できる団体ではなく、建物が現存している限り存在する公共性を有した団体となっている。
以上の前提を再確認して、理事会はマンションの管理・運営に取り組み、組合員が納めた責重な財源を管理し、無駄を省き効率的な運営に徹しなければならない。
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無駄な管理委託契約の要因は |
管理会社への「一括委託」と言われる「全てお任せ主義」が不適切な委託価格の形成と、無駄な経費の支払いになる。多くの場合、新築マンションを購入時、分譲業者が管理委託会社を決めて一括委託方式にさせられている。区分所有者も管理委託契約を始めとした管理運営に関心を示すことはない。管理会社が全て業務を行っているため、情報が組合員に伝達されにくい仕組みになっていることと、理事会も組合員も不適切な契約など締結しているとは考えていない現状である。 |
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「一括委託方式」を「個別委託方式」に変えた事例の検証 |
管理委託契約の中にエレベーターの保守・点検業務等を含めて契約していた(毎月保守点検のフルメンテナンス) 契約に基づき管理組合は管理会社に月額68,666円支払った 管理会社とメンテナンス業者は月額58,000円の契約を結んでいた 管理組合は同じ仕様で競争入札を行い、その結果同じメンテナンス業者と直接契約したところ月額33,333円になった |
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管理委託契約の中に機械警備監視業務を含めて契約していた 契約に基づき管理組合は管理会社に月額16,000円支払った 管理会社と当該業者は月額10,000円の契約を結んでいた 管理組合は同じ仕様で当該業者と直接契約したところ月額10,000円 で契約した |
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管理委託契約の中に立体駐車場保守・点検を含めて契約していた 契約に基づき管理組合は管理会社に1パレット月額1,083円払った 管理会社と当該業者は月額944円の契約を結んでいた 管理組合は同じ仕様で当該業者と直接契約したところ月額777 円で契約した |
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12O戸程度の管理組合が管理会社と締結していた事務管理業務費は月額157,000円、見積もり合わせを3社で行った結果、同じ管理仕様内容で契約し月額49,200円になった 同じように事務管理報酬(管理手数料)が月額175,000円から月額49,200円に引き下げた |
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80戸程度の管理組合が管理会社と締結していた事務管理業務費は交 渉の結果現行の管理会社と引きつづき契約することで月額129,000円(会計処理システムを収納代行方式から原則方式に変え、理事会開催補助事務の一部を変更して)から月額39,000円に引き下げた また、同じように事務管理報酬(管理手数料)が月額117,000円から月額46,750円に引き下げた |
当事者能力を高めて経費の節減(修繕穣立金確保の方策)
理事会の管理・運営にかける問題意識が希薄であれば現行の管理委託契約を見直し無駄を省いた契約を締結することなど思いもよらない。当該管理組合の管理運営を「組合員の共同の利益を確保する」ために、現在までの業務を見直す集団的力量の育成を「理事会の当事者能力の発達(その一部)」と規定したい。管理組合は目的を達成するために財政的裏付けとして組合員から義務費を負担させている。しかし、この義務費(一般会計の管理費)は無尽蔵に集められるものではなく、現在のような経済情勢では増額提案などできるものではない。従って、決められた収入の中でいかに無駄が無く効率的な財政運営ができるか理事会の力量が試されている。
更に、管理組合の目的を達成するために修繕積立金を別途徴収しているが、長期に渡って建物等を維持し保存するための資金が計画的に確保されてはいない。この状態を是正するために長期修繕積立金の増額が総会に提案されてはいるが、必要な増額是正には及ぶべくもない。それは現在のような経済状況では無理のないことであり、組合員の全面負担による必要な財源の確保は不可能と言える。
しかし、理事会は他の管理組合の過去の苦い経験(建物の大規模修繕のために多額の修繕積立一時金の徴収を提案したが総会で否決され廃案になり、コンクリートの廃墟と化したマンションの例)から教訓を学び、一般会計の管理費の支出の見直しによる財源確保の方策を検討することとなった。
取り分け、「適正を欠く管理委託契約の是正」は組合員の負担を軽減することに繋がると同時に管理組合理事会の当事者能力の向上に寄与しつつある。また、この管理契約是正交渉は「適正な管理委託契約額等を認識することになり」これまでの管理会社による一方的な価格の不当性が明確になった。
理事会の当事者能力の育成は一般的な研修も必要であるが、当該管理組合の置かれている現状を把握することと、この現実を全組合員のために変えることができるという理事会のアプローチこそ重要ではないだろうか。
適正な価格とは何か
「適正な委託契約額とはどのようなものか」と問われても即座に答えられるものではない。しかし、物には価格があるように、委託契約にも管理組合から見た満足できる価格と受託者の管理会社から見た満足できる価格が存在する。
「一括委託方式」を行っている管理組合の多くは理事会も組合員もおしなべて組合運営に関心がないと言われている。この場合は管理会社から見た満足できる価格の設定になっている。また、管理組合の理事会がその機能を存分に発揮している場合は組合が概ね満足できる価格設定になっている。
そこで「適正価格とは何か」と言うことになるが、管理を受託した「管理会社が組合と契約締結した業務仕様を完全に履行できる価格」を適正価格と規定し、各管理組合が求める管理業務仕様によって、その適正価格は常に変化するものとなる。
この場合、先にも触れたように管理員の報酬や、日常清掃員の報酬を仕様で明らかにし、労働条件の確保に努め、良好な住環境を整えることが適正価格の形成上欠くことのできない条件となる。
これまで、一般競争入札を行った管理組合の経験から概観すれば、管理組合が求める管理仕様の履行のためにはそれなりの所謂「適正価格」が必要である。しかし、全て価格が引き下がっている実態で、如何にこれまで不適切な価格が形成され、競争原理が働いていなかったか分かる。
つまり、適正な価格は公正な一般競争入札などの競争原理を働かすと同時に管理組合が締結した契約の完全履行を求めることとがかみ合えば、そこに管理組合が求める適正な価格が形成されていくものと確信する。
管理委託契約等の契約解除
管理委託契約は管理組合が決めた業務仕様を受託する管理会社がその業務に係わる対価を受けて行うものである。当該管理組合の管理会社は概ね当初から分譲会社が決め、原始規約の承認と併せて区分所有者の合意を得て業務を行わせている。
当初契約した、管理委託契約は管理会社に有利な自動更新(1年更新とし、その3ヵ月前まで契約解除の意思を表明しない限り、自動的に延長するとした契約条項)を盛り込んでおり、理事会や組合員が無関心であれば管理会社が多少不履行を行ったとしても、対価は払われ、契約は続行している例は限りなく多い。
さて、既に以前から相談が寄せられるものとして、「管理会社が仕事を頼んでも処理してくれない」「決算の書類を請求しても届けてくれない」「決算報告書の記載内容が事実と違うが」「この工事代金が相場より高いと思うが」「銀行の通帳名義を理事長名義に替えてくれないが」等管理会社の不誠実な行為や債務不履行を是正できないものかと真剣に悩んでいる理事会がある。
言うまでもなく、管理委託契約は管理組合と管理会社にそれぞれ義務と権利があり、誠実に履行しなければならない。もし、契約期間中であっても管理会社の債務不履行が確定すれば、管理組合は契約の解除を要求できるし、業務を履行しなかった場合は損害賠償も請求できる。しかし、多くの管理組合は民法に基づく、契約期間中の契約解除と損害賠償請求を実行していないし、引きつづき業務を行わせている現状がある。
現在まで、債務不履行を起こし契約期間中に契約解除した例には幾多もあるが、特に不履行の要因には「収入金が不明になり確保されていない」「関係書類が破棄され、管理組合に引き継がれていない」「支出すべき期日まで支払が完了せず、遅延延滞金が課せられていた」「未販売戸に係わる徴収金を分譲会社から徴収しないで決算した」「水道料金の徴収に係わって、市条例の特例申請を放置していたために組合に損害を与えた」「建物定期報告に係わって初年度は実施しないものを受領した」等がある。
管理会社の債務不履行が確定されれば、所定の手続きに従い契約期間中といえども解約は簡単にできる。その際、損害賠償請求ができるものがあれば組合員の共同の利益を確保する観点から必ず行わなければならない。
また、管理委託契約以外の設備保守・点検業務においても業務が履行されていない場合は同じような方法を駆使して実行する。
契約期間中、債務不履行が発生していない場合でも、契約金額の是正のために当該管理会社との契約解除の意思を明らかにした交渉を行い、早期に解約するべきである。
しかし、この場合契約の相手方が合意しないときは期間終了まで契約が続行し、契約金額を支払なければならない。
むすび
管理委託契約等の締結はマンション管理組合の最重要な課題であり、理事会が当事者能力を発揮して現状の不正常を変えなければならない。マンション管理適正化法が施行されても当該管理組合の事情には少しの変化も及ぼさない。理事会が自ら現在の状況を変えるために法を活用しなければ、御利益は生まれるものではない。
管理組合理事会が「自らの財産は自らの能力で守らねばならない」ものであり、理事会がその気になり、「組合員の利益のために努力する」決意を固めたならば、そこにこそ問題解決の展望が開かれる。
先の事例報告にあったように、理事会が一致して私どもの北海道マンションネットに支援を要請して頂ければ、目的が達成されるまで支援し、必ず管理組合のパートナーとなれる。
また、情報を収集し管理会社と交渉したが、残念なことに途中で挫折した例も報告されている。当北海道マンションネットはそれらの専門的な交渉のノウハウもあり、過去幾多の交渉の支援も行ってきた実績がある。
本日、これから個別相談も予定されているが、自ら情報を収集して改善を進めるためにも、具体的で実践的な相談を受けることを是非お勧めしたい。