|
古舘 真 ゼネコン社員の経験から躯体(構造体)関係の手抜き・欠陥工事の実態や問題点を解説致します。 【1】プロフィール1988年室蘭工業大学建築工学科(構造力学専攻)卒業後に準大手ゼネコン鴻池組に就職。最初の2年間は現場監督(3件いずれも集合住宅)、次の2年間は仮設構造物の設計を担当、その後5年間は人工知能による建物診断システムや情報検索システムの構築など業務用ソフトの開発に従事。約九年間務めた後に退社する。 その後執筆活動に入る。3冊の日本語版の著書と1冊の中国語版の著書がある。 著書:「ゼネコンが日本を亡ぼす」(明窓出版、1,300円)など HP:http://www.geocities.jp/fghi6789/ e-male :fghi6789@ybb.ne.jp 【2】手抜き・欠陥工事の実例1.シャブコン手抜き工事の代表例にシャブコンがあります。シャブコンは生コンを水で薄める手口です。現場で生コンを水で薄める事は禁止されています。大型の生コン車の容量は約5.5?で洗浄水の搭載量は約200リットルです。全部入れてしまうと3割以上の強度低下をもたらします。専門家の中には4割程度に強度が低下すると言う人さえいます。洗浄水の体積は生コンの体積の4%にも満たない訳ですが、なぜそんなに強度が低下するか不思議に思われるかもしれませんが、この場合水分量の増加が問題になるのです。生コンの水分は生コン全体の容量の通常2割程度ですから、洗浄水程度の水でもかなりの増量になります。全て注入すれば水分が2割弱増した事になります。 しかも「2割水分が増えたから強度が2割程度低下する」と単純に比例するのではなく実際には2割よりかなり大きい強度低下になります。「生コンの容量の4%の水を入れたから4%強度が低下する」という訳ではありません。生コンの容積の僅か4%程度の加水をしただけでこれだけの大きな影響を与えます。加水は思ったよりも遥かに重大な事態を招きます。この様に僅かな加水でも重大な強度低下を招く事を作業している者が恐らく知らないという事も安易な加水を招く要因と思われます。 加水の目的は作業をし易くする事です。生コン自体はさほど高価なものではありませんし、4%水を加えるだけでは大して費用の節約にはなりません。 生コンは製造してから打設までの間にミキサーの中にあっても時間が経つと硬化が進みます。気温が高いと更に硬化が早く進みます。生コンは打設の箇所によりますが通常は硬いと作業が困難になります。 シャブコンが横行している背景には工場で生コンが製造される様になった事とコンクリートポンプ車の登場が大きく関係しています。 工場で生コンが製造されるようになった事で、打設開始時にはコンクリートがかなり硬化して圧送が困難になる場合が増えました。現場が生コン工場から遠かったり道路が渋滞していたりすると厄介です。 コンクリートポンプ車はコンクリートの打設を効率的にしましたが、これも生コン車同様厄介な問題があります。高層階のコンクリート打設時には建物に設置したパイプを通して圧送するので、生コンが硬いと作業しづらいのです。従ってマンション建設などはシャブコンが起き易い典型とも言えます。 シャブコンの場合、固まった後のコンクリートを見ても明確な痕跡が見られる訳ではなく、むしろきれいに見える場合も少なくありません。また、通常は内外装を施すので目に付きません。 シャブコンは多くの報告例があり深刻な社会問題になっています。私の現場にいた作業員もどこでもやっているような証言をしていましたから恐らく多くの現場で横行していると思われます。 2.スペーサーを外すコンクリートはアルカリ性ですが時間が経つと表面から中性化します。中性化が鉄筋まで進むと鉄筋が錆び始めます。鉄筋が錆びると膨張した鉄筋の圧力でコンクリートが崩壊し更に劣化が進みます。 そのため鉄筋とコンクリート表面の最短距離である「かぶり厚」が法律で規定されています。スペーサーはかぶり厚を確保するための物ですが、梁の側面や柱や壁の鉄筋には通常はプラスチック製のリングが使用されます。しかし、これをつけていると型枠に鉄筋が納まりにくい事があります。そこでスペーサーを外してしまう者もいるようです。結果としてかぶり厚が十分確保されない場合が出てきます。 3.異物混入コンクリートに異物が混入する事はある程度仕方ないですし、どこまでが許容範囲か境目が微妙ですが比較的事例が多いので紹介します。木片やタバコの吸殻などゴミの様な物がコンクリートに混入する事はよくありますが、極端に大きな物が挟まったり空隙が出来るのは好ましくありません。 木材は一般にコンクリートより強度が高いので挟まっている場所や大きさによりますが必ずしも躯体の強度が著しく低下するとは限りません。 固形物が混じっている事は雑な工事をした証拠と言えますが、余程大きな物を入れて意図的に空隙を作らない限りそれ自体の影響は恐らくあまり大きくないと思われますが、塩分や糖分がコンクリートに混入すると厄介です。塩分は鉄筋を腐食させますし、糖分はコンクリートをボロボロにすると言われています。通常糖分が混入する事はありませんが、海水の塩分や大気中の塩化物などが生コンに混入する事はよくありますので塩分による被害は少なくありません。 4.供試体(テストピース)関連の不正鉄筋の圧接工事などでテストピースに関する不正が見られました。 5.梁の低い位置を貫通する配管参考資料のホームページに実例が掲載されています。(※1) 【3】イメージと実態の違い1.突発的な手抜きが多い手抜き工事は材料費などを節約するための計画的行為というイメージがあるようですが、私の経験では作業が順調に進まないために突発的に行われる事例が多く見受けられました。 仕上げ工事については材料費を節約する手抜きは横行している可能性はありますが、構造材料に関してはその手の手抜きは実際には恐らくあまり多くないと思います。なぜなら現在の材料費はあまり高くないし人件費が高いですから、検査をごまかす手間とリスクを考えるとその手の手抜きによる利益はさほど大きくないからです。 既に説明したシャブコンとスペーサーを外すという手口は突発的な事例の典型です。生コンは1?当たり1〜2万円位ですから洗浄水を全て注水しても費用的には大して節約にはなりません。 もちろん計画的でないから費用をごまかす訳ではないからといって許される訳ではありませんが、突発的な状況が手抜き工事の実態を分かり難くしている現状を理解しておかないと解決にはなりません。 2.検査が甘い建築現場での公的機関による検査体制は実にいい加減でした。例えば手抜きとは直接関係ありませんが労働基準監督署の立ち入り検査は抜き打ちではなく事前の通告がありました。そこで現場では所長から「何月何日に検査が入るから現場を整理しておけ」など馴れ合いとしか思えない指示が出されます。 また既に述べました通りコンクリートに加水する手抜き工事は横行していますが、私の記憶ではコンクリート工事現場に公的機関の検査が入ったのを見た事がありません。現場の良心任せというのが実態でした。シャブコンのような手抜きをやろうと思えば幾らでも出来たのです。 NHKの番組でアメリカのコンクリート工事現場のシーンを見た事がありますが、スペシャル・インスペクターという監視員(民間に委託された監視員の一形態の様です)が殆ど監督のような態度で非常に厳しく現場員を指導していました。そしてインタビューに対して「建設業者は見ていなければインチキするから厳しく指導しなければならない」と日本の役人とは全く違う意見を表明していました。 3.本当に知らないよく原発事故などで電力会社の経営者が「実態について知らなかった」などと発言する事がよくありますが、恐らく本当だと思います。手抜き工事は所長でさえ気付かなかったとしても何の不思議もないのです。私の現場の事例では多くの場合は上からの命令ではなく下の者が勝手にやっていたようでした。 建設会社でさえ上の者が気付かないのですから、販売会社や学者が実態を知らなかったとしてもなんら不思議はなく、多くの場合本当に知らないのです。 【4】消費者の心得1.決めて無しと割り切る残念ながらこうすれば欠陥を見抜けるとか欠陥のないマンションを購入できる決定的な方法はありません。内部の構造的な手抜き工事を完成後に見抜くのは専門家でも容易ではありません。 完成後に建物のコンクリート強度をチェックする方法としてはシュミットハンマーなどによる打診の非破壊検査やコンクリートを円筒状にくり抜いて品質を検査するコア抜きの検査などがあります。後者の方が手間はかかるが正確な検査です。普通の建物であればタイルや壁紙などの内外装を仕上げとして施しますのでベランダなどの場所以外では通常はむき出しにしません。いずれにせよ内外装を外して強度を検査するなど非現実的です。また建物の安全性を確認したいのなら自分の部屋の強度だけを確認するだけでなく他人の部屋や共用部も調べなければなりません。 建築士に見てもらうのは造作や立て付けや雨漏りなど仕上げや使い勝手に関する表面的な部位や性能については手抜きや欠陥が発見される可能性もありますので全く無意味とは言えませんが異常が見つからなかったとしてもあくまで外見上問題ないだけの話です。また、建築士自体は必ずしも手抜きを見抜くのが得意という訳ではありません。 完全に手抜きを防ぐには工事の途中の工程をプロが監視するしかありません。これは業者と行政の責任であり、現実問題として素人に監視しろと言われても無理です。 2.言われた事を鵜呑みにしない素人の直感は案外役に立ちます。学者でも妙な事を言う人はいます。自分で考える事は大切です。 3.複数の人の意見を聞く意見が異なる場合はどれかが間違っているという事ですから、複数の人に見てもらうのは有効です。 4.見た目と実際の違いに注意見た目は深刻だが実際は大した事ない場合と見た目は大した事はない(或いは手抜きや欠陥であると殆ど分からない)が実際は重大な欠陥である場合があります。 前者の例に「ベランダなどのひび割れ」、「エフロレッセンス」などがあります。新築間もないマンションのベランダなどに細かいひび割れが多数入る事例はよくありますが、構造的には必ずしも深刻でない場合も少なくありません。但し、これらの全ての事例が大した事ない訳ではありません。 エフロレッセンスはコンクリート表面に白い析出物が付着する現象です。派手に白い物が析出して欠陥に見える事がありますが、構造的には重症ではない場合が少なくないので判断が難しい事例です。 阪神大震災では崩壊した建造物のコンクリートに大きな木片が挟まっているのが見つかり騒がれましたが、木片の混入はその場所にもよりますが、強度的には必ずしも大きな低下をもたらす訳ではありません。木材の強度はコンクリートより強いので場合によってはむしろ強くなっている事すらあり得ます。ただそういう事例が見つかれば雑な工事をしていたという証拠にはなりますし、決して好ましい事ではありませんが、強度的には必ずしも重大な欠陥とは言えません。 大した事がなさそうで意外に影響が大きい事例の典型は何と言ってもシャブコンです。 5.二次被害に気をつける上記のような現象で実際は大した事がないのにその部位を専門家と称する人が指して重大な欠陥であるかのような説明を受ければ素人なら簡単に騙されてしまう可能性があります。 私に言える事はせいぜい「二次被害にあわないように気をつけましょう」という事くらいです。マンション購入の際の手引きのような情報は巷に溢れていますが、既に述べましたとおり「これが絶対」という方法はありません。あまりはっきりし過ぎている解説は疑ってかかった方がよいでしょう。 【5】マンション購入に関する通説の検証マンション購入や建築工事などについてよく耳にする通説については疑わしいものも多数あります。そのうちの一部をとりあげて検証してみました。 1.業者の規模は関係あるか業者の規模については直接的には関係ありません。工事の良し悪しは監督と下請け業者の質が重要です。大手でも監督や下請けが駄目であれば駄目な建物が出来る可能性があります。 ただ、大手の方が良い下請け業者が来る可能性が高いので全体としてみると確率的には高い可能性はあります。また、一般に大手ゼネコンの方が建築工事の比重が大きいので確率から言うと大手の方がマンション建設に慣れているという事は言えるかもしれません。 また、大規模な現場ではJV(共同企業体)が組まれる事がよくありますのでどこのゼネコンの建物と単純に言えない場合も少なくありません。 結果論としては正しい可能性はありますが、あまりうまい選び方とは思いません。 2.赤字工事だと手抜きが多いか手抜き工事の有無はその現場の収支より業者や施工担当者の良心が重要です。実際に手抜きの目立った時期としては高度経済成長期などがあり、忙しいから手抜きをする場合も少なくありませんので不況時の建造物だから必ずしも危ないとは言えません。そもそもその工事が赤字だったかどうかは素人には容易に分からないのでこれもあまり意味のない選択基準だと思います。 3.高層マンションは安全か鉛筆を立てた場合と寝かせた場合では当然寝かせた方が安定しています。建築物についても同じ事が言えますが、不安定な形状であれば柱を太くするとか杭を地中深く打ち込むなどの特別な配慮を施す場合が多いので、必ずしも高層建築が危険だとは言えません。消費者の不安な心理を払拭するために業者としては高層建築については特に安全性を追及するための技術的努力をしている事を強調してきました。それが逆に「高層の方が安全だ」という倒錯した心理を生み出す要因になっているようです。 制振装置や免震装置もまだ分からない部分が多く確実とは言い切れません。 【6】知っておくと便利な知識1.維持補修費の重い負担(株)鴻池組の社員教育用資料によるとライフサイクルコストのうち初期建設費の割合は約二割程度に過ぎず残りは維持費、補修費、解体費などです。維持補修費が建設費の五、六倍になるのは当たり前で、十倍になる事もあります。ライフサイクルコストに占める維持補修費の割合は一般的なイメージより遥かに高いのです。 マンションの所有者が負担する費用は部屋を購入する額だけではありません。維持補修などメンテナンスの費用も考えなければならず、将来意外に高い管理費を払わなければならない可能性もあります。 2.CM工法CM工法は従来のようにゼネコンが一括発注する工事と違い、ゼネコンを通す必要のないシステムです。そのため重層下請け構造による途中の無駄が無くなり発注者のコストが低くなるメリットがあります。ゼネコンを通さないで品質に問題は無いのかという意見もありますが、アメリカではかなり普及しており日本でも浸透しつつある注目のシステムです。 3.木材の意外な強さコンクリートというと強固なイメージがありますが、実は単体で圧縮強度と引っ張り強度を比べた場合、一般に木材の方が強いのです。特に引っ張り強度は木材の方が遥かに上回っています。 但し、コンクリートは通常鉄筋で補強しますし、様々な形状に加工できますので木材よりは構造力学上最適な形に近づける事が容易です。また木材は接合部に弱点があります。そういう理由で一概に木造が強いとは言えませんが、鉄筋コンクリートだから耐久性があるとは必ずしも言えません。 【7】参考資料 ○いかずちのサテライトオフィス(http://mypage.odn.ne.jp/home/0859)
○いかずちのサポートページ
○欠陥マンションを問うHP(http://www2.odn.ne.jp/~cbj69620/index.html)※1
○CM工法を実施している業者のHP(http://www.cmpm.jp/) |