基調報告「マンション管理員像試論その1」

      管理員業務の現状と今後の展望

はじめに

 昨年から実施した本管理員セミナーは本日第3回目を迎えました。この間、管理員の皆さんと管理組合或いは管理員を雇用している管理会社等からセミナーの内容等について様々なご意見、激励、提案等が寄せられております。主なものとして「講師の話が分かりづらい、事例を多く紹介して」「 資料の活字が小さい」「管理員が実際の仕事に役立つ内容にして欲しい」「会社はこのような講習会を開いてないので、助かっている」「マンションネットのメッセージは私の考えと同じだ」「毎月開いて」等と多様な内容になっています。
 このような率直なご意見を参考にして、「参加して良かった、明日からの業務に生かすことができる」と納得して頂けるセミナーに成長させる所存であります。

 マンションネットが管理員さんを対象にして開催する当セミナーの目的は「管理員さんはマンション管理のプロでありながら、その職に相応しい教育や情報が提供されていない」という残念な現実を直視し、管理組合からは「今度の管理員さんは良く勉強しているし、入居者との対応もいいし、問題解決に積極的だ」と評価される管理員教育に資する情報提供を行いたいという考えからであります。
 また、現在、管理員業務に従事している方々の中にも、「マンション管理のプロとしての知識と技術をマスターし、管理組合が期待する業務をしたい」という願望が多いことなどがあげられます。

 「管理員は門番や清掃人ではない、マンション管理の専門家だ」という、私たちのスローガンと目標は除除にではありますが、マンション関係者の中に浸透してきていると確信しています。
 今回のセミナーの案内は北海道新聞社生活部の記者さんが、「マンションネットが掲げる管理員さんに対するメッセージを分かりやすい文章で紹介して頂き」大きな反響を呼びました。その結果、参加定員を大幅にオーバーいたしました。従って、本日のセミナーに参加できない方々のために、同じ内容で後日開催することに致しました。


管理員業務の現実

 マンション管理員の業務は国土交通省が示している標準管理委託契約書「別表2」で明らかにされているように、(別紙、標準管理委託契約書と別表を参照してください)
 (1)受付等の業務
   ・区分所有者及び入居者の各種の申込書の受理と報告
   ・宅配便の預かり、引き渡し
   ・利害関係人に対する管理規約等の閲覧
   ・共用部分の鍵の管理と貸し出し
   ・管理用備品の在庫管理
   ・引越業者等に対する指示
 (2)点検業務
   ・建物、諸設備及び諸施設の外観目視点検
   ・照明の点灯及び消灯並びに管球類の点検
   ・諸設備の運転及び作動状況の点検並びにその記録
   ・無断駐車等の確認
 (3)立会業務
   ・外注業者の業務の着手、履行の立会
   ・ゴミ搬出時の際の立会
   ・災害、事故等の処理の立会
 (4)報告連絡業務
   ・管理組合の文書の配布又は掲示
   ・各種届出、点検結果、立会結果の報告
に区分されています。また、50戸程度以下の小規模マンションでは別表以外の、日常清掃業務、或いは除雪、植栽業務等も兼ねて実施しています。
 別表で示されている業務内容は他の業務と比較すればその記載内容は極端に少なく、これからマンションの管理員を希望している方々にとっては、この業務内容は安易に見えるでしょうが、現実とは随分と乖離しています。
 管理員業務以外の業務は別表に記載されている業務を履行すれば問題ありませんが、当該業務は別表に記載されていない事項が無数にあり、業務中にどんな問題が発生するか予想が付きにくい側面があります。従って、人生経験の浅い青年は管理業務には適しないと言われているところです。
 管理員は付随的に建物の清掃なども実施していますが、マンション全体の問題全てに責任があり、そのために常駐して業務に当たっています。よって、管理員はその勤務の内容と体制から「理事会や会社のフロント担当者よりマンションの実態を良く知る立場にあり、マンション管理の当事者である理事会の重要なパートナー」であります。
 従って、「リタイヤしたから、今後は楽なマンションの管理員でもやろうか、等」と軽く考えている方がもし、いれば、それはとんでもない考え違いをしています。

 さて、現在多くの管理会社が実施している管理員の業務実態或いは管理員の労働条件はどのようになっているのでしょうか。
 まず、業務の基本的な考え方の問題として、「建物の門番と清掃人」という表現に置き換えることができます。つまり、管理委託契約で締結している業務内容は履行されていないと言うことであります。
 これは勤務している管理員さんの問題ではなく、雇用している会社の問題であり、会社がその程度の業務を履行すれば良いという認識であります。従って、勿論、管理員教育は適正に実行されず、管理員個人の力量に依存していると言っても過言ではありません。
 このような状況を反映して、管理員さんによって業務の内容に差が生じています。例えば、私どもマンションネットが一番重視している「建物・設備の点検業務」にその差が現れ、日に一度も点検していない管理員さんもいたり、或いは、日に必ず二度は点検して日誌にこまめに記載している管理員さんもいます。また、点検はしているのだけれども、科学的見地を無視して、「地下の結露を一層拡大した」例や問題箇所を見逃して大事に至っている事例もあり、「管理員教育がマンションの管理のために系統的・科学的に実行されていない」ということです。

 また、当然のことのように労働条件は劣悪であり、週40時間雇用の方でもその多くは月額11万円〜13万円程度、有給休暇もなく、休めば減額する会社もあります。
 管理組合と管理会社が締結している管理委託契約書には管理員の年額賃金は240万円と記載されていますが、現実に月額12万円の支給となっている事例が多く、このようなピンハネ構造が劣悪な労働条件を生んでいるとも言えます。しかし、マンションネットの収集した情報には道内の5社程度は契約した賃金を正規に全額支給している会社もあります。
 つまり、管理員業務の現実は、誰でもできる「門番と清掃人」だから、労働条件も悪くて当然なのだと言わんばかりの現実です。


管理員業務はマンション管理の要

 管理委託契約の業務の内容のうち管理員が実行しなければならない業務の割合は70%以上であり、管理員さんが行う業務が完全履行していれば、管理委託契約の90%以上達成していると公言している管理会社もあります。このように、現実は軽んじられている管理員業務は、本当はマンション管理の要の仕事と断言できます。

 本日、体験報告をして頂く方は理事会の重要なパートナーとして活躍されており、理事会も標準管理委託契約で示しているような業務内容以外の理事会運営にも参画しており、このような方は全道広いと言えどもお一人のみと思います。
 このような業務を皆さんが行うことを願って、本日報告して頂いた訳ではありません。是非、皆さんに参考にして頂きたいことは、当該マンションで発生する全ての問題に関心と意欲を持って取り組んで、理事会の良きパートーナーとしての地位を確保していただくことであります。

 具体的には第一として、マンションは鉄筋・鉄骨コンクリート造、或いは鉄筋コンクリート造であり、経年劣化が進みます。そのため、管理組合は長期修繕計画を作り資金を計画的に積み立てて、大規模修繕等に備えているところです。このように、管理組合の設立目的の第一は「マンションの建物・設備等の維持と長期保存」にあります。
 従って、日常、管理員さんが実行している、管理員業務の内「建物・設備の点検」は最重要であり、もし、他の業務が等閑にされていても当該業務は絶対サボタージュしないでほしいものです。この業務の実施結果に基づいて、理事会は専門家の建築士等に詳細な診断を依頼する重要な足がかりとなるものであるからです。
 ある管理組合の事例として、「通常、あまり点検していないと言われている地下ピットを管理員さんが毎日点検して、水漏れを発見して大事に至らなかった」貴重な経験が報告されています。このように建物と設備の点検業務は毎日必ず実施してこそ意味があり、「私なんか週に一度しか実施していない」と自慢している管理員さんがいないようにしなければなりません。

 次に、マンションには法令で定められた、法定点検(消防設備、エレベーター設備、建物定期報告、特殊建築物報告)があり、それぞれ業者と管理組合が契約して実行しています。その点検の際、管理員は立ち会うことを義務づけられていますが、放置している事例があります。これらの点検立会業務はマンションの実態を理解する上で欠くことのできないものであり、是非、立ち会って業者の担当者から必要な情報を収集してもらいたいものです。

 更に、マンションは共同住宅として人間が住まいをしている場所であり、様々な問題が当然発生します。これらの問題の処理或いは解決の手段はあくまでも法令であり、管理員の勝手な独断と偏見では対処できないことになっています。
 本日も法令実務報告で示されますが、マンション管理組合の運営に係わる法律は20本以上あり、これらの法文の知識と法令に基づく対応が要求されます。
 ある管理組合の事例として「入居者が大きなコンパネを運び込んでいる事実に管理員が直面したが、放置したためにベランダに飼育している犬の囲いを作ってしまった。後日、理事会で問題になり、撤去を申し出たが中々撤去してくれなかった。管理規約を知っていれば、搬入している際本人に何に使用するのか尋ねて、その時点で対処できた」ものであり、管理員の業務不履行ということになりました。
 つまり、法令に基づくマンションの適正な管理が求められているもので、関係法令を熟知することが極めて重要となります。

 以上のように、マンションの管理員業務は「門番や清掃人」ではなく、マンション管理の専門家として、実際的にも管理委託契約上も規定されていることを再確認したいと思います。


管理員業務を達成させる保証

 さて、管理員業務を達成させるためには、どのような仕組みを構築しなければならないのでしょうか。私たちはこれまでの管理組合支援の中から次の重要な課題を一歩一歩前進していく意外に方法はないと確信しています。

 本日のセミナーは全国的にも珍しいと言われておりますが、このような管理組合が必要としている管理員さんを養成する教育制度の確立こそ重要でしょう。そして、焦眉の課題として、このような教育或いは、セミナーを受講した者を採用する管理会社の出現が望まれます。

 「門番と清掃人」という認識から、真の管理員業務を行うために、雇用主である管理会社がこれまでの行きがかりを捨てて、管理組合の立場に立った「管理員像」を改めて認識してもらうことです。管理員業務を正当に評価する管理会社を情報で発信し、この流れを大きくしていくことでしょう。

 現在、多くの管理員さんは先にも指摘したように劣悪な労働条件で雇用されており、マンション管理の専門家として相応しい待遇は受けておりません。意欲を持って業務に専念するためには何としても労働条件の改善が緊急の課題です。
 この問題を真剣に考えているマンションネットは現在新しい具体的な提案を支援管理組合に提起しています。その内容は(別紙を参照)管理委託契約を締結する際、管理組合が管理員業務が達成できるための労働条件を決めることにあります。

 管理員業務を達成させるための条件を提起してきましたが、何と言っても、このような提案をしてきた、マンションネットの活動を一層飛躍的に発展させていくことにあります。
 今回、このように多くの管理員さんなどの関心を呼んだ「管理員のホジション確立」の世論を高めるために引きつづき活動を強化させて参ります。


管理員業務の展望 「新しい管理員像を支える要因」

 管理員さんが生き生きとして業務に専念してもらうためには様々な要因があります。その要因を創り出すのは管理員さんでもあり、管理組合理事会でもあります。その両者がうまくマッチしたところに私たちマンションネットが提唱している「新しい管理員像」創造の基盤があると確信しています。

 その事例とも言うべき新しい動きがあります。ある管理組合の話し。「これまでの管理会社から新しい管理会社に替えて管理委託契約を締結しました。勿論、管理員さんも変わりました。この管理員さんは日々勉強を欠かさず、マンション管理の専門家としての自覚した業務を実行して、理事会を始め住民から大変信頼を集めています。当然のこととして、セミナー等にも参加され自己研鑽を欠かさないという方です。先日、当該管理組合の理事長さんから相談を受けました。次期、管理委託契約変更に際して現在の管理員賃金を引き上げたいと考えているが、どのような方法がありますか。というものでした。「理事会と住民の皆さんがそのように考えているのであれば、実現してあげて下さい。きっと、引き上げた賃金以上の効果があることは間違いないでしょう。このことによって、今後のマンション管理の有り様に劇的な変化が必ず生まれます」と心から賛意を述べたところです。」

 管理組合は管理員に対して、マンション管理の専門家としての業務の履行を求めることと、それを保証する労働条件を向上させることは車の両輪の如く、理論的にも実際的にも必要な条件です。

 また、新たな課題として、管理員は理事会に必ず出席して、これまでの管理の報告と今後の対策を理事会のパートナーとして議論に参加することが、双方に取って業務を遂行する大事な要因となります。

 理事会と管理会社及びマンション関係者は認識を新たにして、管理員が業務履行のために相応しい業務上の処遇を与えていくことが求められていると思います。
 「マンション管理員像 試論その1」の報告を致しましたが、今後、理事会や管理員さんのご意見等も参考にしながら、管理員像の理論的追及めざして研究して参ります。




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