基 調 報 告  「マンション住民に期待される管理員とは」

はじめに

 この度、何故「管理員を対象にしたセミナー」を企画したのか、その問題意識は本基調報告の題が示しているように、「現状の管理員業務に対する失望と、情報を提供することによって何とかなるという、管理員さんに対する強い期待」の現れが本セミナーを開催した理由であります。
 管理組合(法人)が抱える様々な問題を解決するためには極めて専門的な能力が必要であり、そのために「情報収集を行い、専門書を研究し、理事会に参加し実務の経験をしなければ」理事会として問題を解決する能力は備わりません。しかし、このような当事者能力の造成に努力している管理組合はまだまだ少数派であり、大多数は管理会社にこの種の問題解決を全て委ねている現状です。
 このような現状の中で、管理委託契約を締結した管理会社は管理員を雇用し、管理組合に常駐させ、日々の管理業務を実行しています。しかし、誠に残念なことに現状では管理組合が望んでいる「マンションの管理業務」が適正に履行されているとは認められません。しかし、これには管理員さんを責めることができない理由があります。
 今回のセミナーは向こう3回シリーズとして、初級程度のカリキュラムを組みました。今回のセミナーの特徴は、「高層住宅管理業協会が発行したテキストを基盤にしている管理会社の管理員教育」とは違い、どちらかというと「マンションの建物と設備を管理する」業務に相応しい内容になっています。それは、管理員さんは本来、マンション管理の現場の管理者として当然、建物と設備の構造を知り、点検に熟知していなければならない業務であり、そのことが当然のこととして望まれているところです。
 従いまして、できれば本日も含めて本セミナーを3回受講していただければ、私どもマンションネットの初期の目的が達成できると思います。

管理員が置かれている現状

 さて、管理員が置かれている労働条件は極めて劣悪であり、私どもマンションネットが主張している、「マンション管理のプロ」としての位置づけがなされておりません。例えば、週40時間の勤務時間で月額11万円程度、しかも日給月給で休めばその分差し引かれ、1時間当たり687円という最低賃金を多少上回っているものが圧倒的に多いのが現状です。
 調査によれば高いところで15万円から16万円程度であり、時間給にすれば900円から1,000円、しかし、管理会社の多くは平均すれば12万円から13万円程度であり、この賃金の状況は未だに変わっておりません。
 このように、マンションの管理員業務に対して適正な賃金が保証されておりません。しかし、管理委託契約によれば月額20万円とか25万円という高額な管理員業契約金になっており、悪い言葉で表現すれば、管理会社がピンハネしている現状があります。勿論、契約金額通り管理員に支給している管理会社も少数ですが存在しています。
 ある管理組合が管理会社を変える競争入札を行うに際して、管理仕様の管理員業務の中で、管理員の賃金を月額15万円以上と規定して管理会社を選定し、これまでの12万円から3万円底上げの15万円になり、当該管理員さんは大変管理組合に感謝していたそうです。
 「マンション住民が期待する管理員業務」を求めるためは、まず、賃金の是正に取り組むことがどうしても必要です。それを実現するために管理費を増やす必要はありません。管理組合が管理会社に対して是正を請求し、どうしても是正しないのであれば管理会社を変更しなければ成りません。
 また、「有給休暇を申し出たら代理者がいないからだめだ」と積極的に申し出ずらくしている場合もあり、お盆と正月のそれぞれ3日間だという場合が一般的になっています。

 次に管理会社の管理員に対する教育と指導の問題では悪い例として「理事会の動きを担当フロントマンに連絡すること。管理業者など関係する業者とは情報の遣り取りはしないこと。管理組合に届けられた郵便物等は理事会に渡さず、必ずフロントマンに提出すること。理事長はどのような業者と接触しているか報告すること。」など、管理組合の監視役として管理員を配置していると勘違いしている管理会社もあります。
 さて、本日の管理員業務の教育のテーマに直接かかわる問題として、管理員を採用した場合現実にどのような業務の教育を実行しているのか、「1週間程度先輩管理員の職場において研修と称していること。また、マンションの掃除を何日か行わせて研修と称していること。担当フロントマンから一通りの事務引き継ぎを受けて研修称していること。初日から先輩管理員と3日程度業務を行ったことで研修と称していること」が多くの管理会社でスケジュールになっています。
 また、年に1度か2度研修会を実行している場合でも「例の高層住宅管理協会のテキストをベースに、講師が読み上げて研修と称していること。管理員は掃除が要だから掃除の仕方を指導して研修と称していること。」
 或いは、これまで6年間も努めたが一度も研修を受けなかった管理員。管理員から「マンションの業務は専門的だから是非研修会に出席させて欲しい」と要請があったが、管理会社フロントマンは「分からないことがあれば、直接聞いてくれ、研修など受けなくても管理員の仕事はできる、会社が言うことだけ実行していればよいのだ」と研修を受けることすらできなかった苦情の事例は相当数に達しています。
 つまり、「マンション管理のプロ」である管理員業務を管理会社は現状では軽視していることが指摘できます。何故、軽視しているかと言えば「管理員は門番、清掃人、など」と管理員業務をさげすんでいるところにあります。
 従って、マンションの建物・設備の構造など教える必要がないということと、「健康な者であれば誰にでもなれる」という 認識が現状を規定しております。
 よって、これから管理員を目指そうとしている方は職業安定所の話しによれば、一人の採用に対して常に30名以上が応募してくるそうですが、これは誰でも簡単に管理員業務ができるという安易な考え方が蔓延しているためでしょう。この要因を形成しているのが管理会社の安易な「管理員像」と、現状の管理員業務の現実を映し出しております。
 また、教育と指導が成されていない、反映として、「入居者に対して挨拶ができないこと。言葉使いが横柄なこと。当然入居者に対して注意しなければならい事項なのに放置し、問題を大きくしていること。入居者の横暴に対して、会社への報告、理事会への報告を放置していること。入居者の問題を吹聴し問題を大きくしていること。施設の点検を放置し、日誌には点検異常なしと記載していること。各種のメンテナンスに全然立ち会わないこと。」などが指摘できます。

 また、果たして、マンションの管理に必要な具体的情報が伝達されているのか。残念な事例によくぶつかります。「今年は大変暑い日が続き、地下室に大量に結露が発生した。管理員に物事の道理を伝えてないために、熱い外気を地下室に入れ一層被害が拡大したこと。パイプシャフト内に灯油の臭いが蔓延しているのに放置していること。給水管を包んでいる銀紙の金網が錆びているのに放置していること。屋上のドレン管にゴミが詰まっているのに放置していること。受水槽を支えている架台の錆びを放置していること。地下ピットの点検業務を何年間も放置していること。地下室の揚水ポンプのモーターの音を点検してないこと。」など、当然実行しなければならない建物と設備の点検が等閑にされています。
 この点検業務は管理会社として行うべき情報の伝達が実行されていないために起きているものです。現場に出向き管理員さんに伺ってみて、何時も感じることとして、マンションの構造等に知識のない管理員を配置して、何も知らせないでどうしてまともな管理が履行できるのでしょうか。特に、フロントマンが30棟も担当しているある管理会社にこのような、事例が発生しております。しかし、どの管理会社においても建物・設備の点検項目があって点検しているようになっているが、現実には当該業務の不履行の状態が続いていることに間違いはありません。

求められる管理員像

 さてそれでは、マンションの住民が求める管理員像はどのようなものでしようか 。そのためにある管理員さんの業務事例を紹介致します。この管理員さんは丁度業務を初めて11年目になります。現在は病気入院中であり、復帰できるかどうか微妙な現状です。
 当該管理員さんの業務は不思議なことに、管理員業務と管理委託契約している管理会社の業務中、基幹業務の一部を管理会社が実行し、その他は全て管理員が執行しているということです。 勿論、普通フロントマンが行う理事会業務の補助も管理員が行い、現実には管理組合理事長代理を努めているようであります。このような業務を執行する管理員さんを「求められる管理員像」とは考えておりません。特殊な能力のある特別な管理員さんと見ております。
 では、何故、例に掲げたかと言えば、一般的に管理会社が業務として決めたものを単に形式的に消化するだけで、果たして管理員としての業務が達成できるのかと言うとそうではありません。 確かに、雇用主である管理会社は管理員業務を達成するために必要な情報の伝達や、教育に熱心ではありません。長年かけて必要な情報を自ら修得せよと言っているようでもあり、誠に誠意がない管理会社の実態であります。

 このような現状を踏まえて、この管理員さんは熟慮したようです。「管理会社が何も教えてくれない、情報も提供しない、それじぁ自分で調べよう」と決意し、まず、「管理組合の法令実務を学び、管理規約の改正、予算・決算の作成を自ら手がけました」理事会にも提言するようにしたようです。また、「各種メンテナンス契約の適正価格を調査し、直接業者と理事会に代わり交渉し随時引き下げに成功し、現在では一般会計で毎年度700万円の余剰金を得ている」ところです。
 管理組合の理事会の一員のような活躍をしていることを高く評価し、紹介しているのではありません。自ら情報を収集したり、学んでいこうとする管理員の姿勢がここまで管理組合の利益になっているところにあります。
 つまり、これから私どもが提供する本日の情報を足がかりにして、「マンションの管理員としてのプロ意識の向上に努めて」頂きたいものです。

管理員業務はマンションの建物・設備の町医者

 先にも触れましたが、管理員はマンションの番兵や清掃人、草刈り人などではありません。確かに小規模マンションでは日常清掃や草刈りもしなければならないでしょう。
 マンションの管理組合の設立目的はただ一つ「建物と設備、敷地棟の保全と管理。財産の管理団体として公益法人に準じる性格を付与されている」ところです。そのために「管理費と修繕積立金を管理規約に規定し徴収して、その実現にあたっている」のです。
 従いまして、その目的を達成するために管理委託契約を締結し、管理員に日常的に管理を依頼しているのです。その、建物と設備の管理を任されている管理員が「管理会社が全然情報を提供しないから知らない。教育をしてくれないからできない。」という理由で傍観者でいるのであれば誰が、何億、何十億の建物と設備を管理することになるのでしょうか。
 管理員は建物と設備の町医者と規定してみました。管理員は専門教育を受けた建築士の方が業務を行えば問題はありませんでしょうが、現実はそのようになっていません。
 町医者は大学病院・専門病院のような設備とノウハウがありませんが、かかりつけ病人として常日頃、健康の状況を把握しております。同じように、管理員もマンションの実態を常日頃把握して、異常を発見し専門業者に修繕を依頼したり、何かしら異常なのだが原因が分からない、その場合はマンションの実態に精通している建築士に診断の依頼をしたり、となります。
 以上、見てきて明らかのように、管理員業務の主体は建物・設備の保全の下支えとして、大きな力量を発揮しなければ成りません。
 ある管理組合の理事さんが「今度の管理員さんはこれまでの管理員さんと違い、草取り、掃除、除雪等に熱心に取り組んでいます」と述べてました。そこで、当該管理員さんに「毎日毎日ご苦労様です。ここのマンションは130戸の大規模で、外の作業は大変でしょう。ところで、建物と関連設備の点検はしっかりと履行してますか」と尋ねたところ「主な見えるところは見回りしてますがパイプシャフトとか地下などは見てません。そんな暇はありません」とのことでした。
 これは本末転倒ではないでしようか。外の仕事は外注すれば達成されますが本来履行しなければならない建物の管理ができないでは何のための管理員業務でしょうか。
 管理員は建物と設備の全ての状況を把握し、異常を早期に発見し専門医の一級建築士や理事会に引き渡すことこそ最重要な課題であります。

「点検と保守」の履歴を保存

 管理員業務は日々の管理の状況を日誌或いは業務報告書に記載し、管理会社と理事会に報告しなければなりません。その中には各メンテナンス業者が業務を履行した報告書等があります。管理会社の中にはその報告書等を正確に保管してなく、後々、メンテナンスの債務不履行を巡って管理組合が主張できなかった事例がありました。
 管理員はこれらの関係書類を一枚も漏らさず厳格に管理し、保存しなければ成りません。一年分づつ理事会に引き渡しているところもありますが、殆どの管理組合は管理員室にそのままになっています。全ての書類は子細漏らさずファイルすることが管理員業務達成に不可欠となります。

管理組合の法令を事例で理解

 管理員さんも当該管理組合の管理規約などの法令を理解してなければ、業務上支障をきたします。ある管理組合でおきた事例。「最上階の区分所有者が大きなコンパネを何枚もエレベーターで運んでいる現場を目撃し、尋ねたところバルコーニーに囲いを作ると言われたが別に問題とは理解してなかった」その後、「理事会が建物・設備の現状点検を行うために屋上に上がったところ、当該区分所有者が行った塀を発見、バルコニーで犬を飼育するためにコンパネが使われていました。理事会では早速管理会社を通じて、撤去を申し出たが依然として、撤去する模様が無く困窮している」理事長が管理員に対して「コンパネを運搬するのを確認した時点で何故、設置を止めなかったのか」と聞いたところ「問題がないと思いました」との返事。管理員が法令を熟知して設置する前に中止を申し渡し、理事会に直ちに報告していればこのような事態に発展してなかったものです。
 法令を条文で理解しようとしても中々難しいところなので、事例集を揃えて様々なケースで理解することが望ましいでしょう。

日常業務の実務を自らマニュアル化

 管理員業務は多岐にわたっておりますが、「一日やニ日、管理員室に座っていても、問題何か発生しないさ」と思っている管理員もいるでしょうが、このような状態が日常化すれば、当然管理員業務に瑕疵が発生します。
 このようなことのないように、毎日の業務を自ら書式に明記して管理員室に張り出し、管理会社のフロントマンや理事会のメンバー、住民に対して、どのような業務をどの時間帯に実行しているのか明示することが必要です。これは自らの業務履行の上でも不履行を起こさない、監視役の役割を果たすことになります。
 そして、どのような業務を実行していても管理員が管理員室に存在する時間帯を理事会、管理会社、住民に明らかにすることが望ましものです。例えば、始業開始30分、11時30分から12時まで、午後は2時30分から3時まで、終業の30分前から終業までと決めて、住民に周知すれば、管理員さんはどこに言ったなどと苦情はでません。

管理組合の広報を活用

 管理員の業務を住民に理解してもらうために、理事会が発行している公報に随時管理の状況を掲載することが必要です。元々、管理員と住民は日常様々な問題で交流があり、良い関係も悪い関係も生まれます。管理員の業務を住民が理解することによって、当該マンションに対する関心も生まれます。

期待される管理員

 さて、第1回のまとめとして、管理員さん、理事会始め住民の皆さん、管理会社の担当者の皆さんへのメッセージは「管理員は門番、清掃人、等ではありません。建物・設備等の管理のプロです。管理員自信もその自覚を持ちましょう」ということであります。
 そのために、本セミナーは「マンションの建物の構造とその点検」を重点にしております。勿論、「管理員が当然熟知しなければならない法令実務」と「日常業務」についても事例に基づいて報告致します。

「マンション住民が期待する管理員業務」

 第1に、マンションの建物・構造・敷地の現状を知ること。第2に、その建物等の点検を励行してその実態を理事会と会社に対して適正な報告を行うこと。第3に、日常業務はマニュアル化し、住民の依頼、住民の苦情等の処理は放置しないで直ちに対応し、関係機関、理事会、管理会社に報告及び引き継ぎを実行すること。第4に住民の不法行為等が発見したならば、放置しないで、その場で解決できるものは対応し、理事会・会社に報告すること。第5に、エレベーターなどの各業者による保守・点検には必ず立ち会って、適正な業務を履行させること。第6にマンション管理組合の法令などの習熟に努めること。第7に、住民には常に誠意をもって接すること。
 以上を基本的な業務あり方として、「マンションの管理のことなら何でも管理員さんに聞いて」と住民から信頼される関係をつくることが望まれます。そのために管理員の 技術力と知識力の向上を目指して、自ら努力することと、雇用主である管理会社は管理員の能力アップを保証しなければなりません。
 しかし、現実は管理員の自助努力に委ねられており、管理組合が期待する管理員は中々出現しておりません。従いまして、今後、管理組合の立場から管理員を支援する様々な講座、セミナーを開催してまいります。

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