(4) 耐震性能の向上

・マンションの耐震性能は安全性に関わる最も重要な性能の一つです。マンションの現状の耐震性能は、躯体・材料の経年劣化、火災・地震等の被災による構造の劣化等により、建設時に保有していた初期性能よりも低下していることがあります。また、わが国の建築物の耐震性に関する法令は、過去の震災の教訓等を基に何度か見直しが行われているため、建設時に保有していた耐震性能そのものが現行の新しい耐震基準を満たしていないこともあります。

・このため、現マンションの耐震性能の評価を行い、問題があれば、耐震補強を行う必要があります。


(4)−1 耐震補強工事

耐震性の評価方法

・老朽化の著しいマンションや現行の新耐震基準が適用された1981(昭和56)年6 月1日以前に建築確認申請を受けたマンションでは、現行の耐震基準を満たしていないことがあるため、耐震診断を行うことが重要になります。

・なお、中低層壁式構造の建物は、旧耐震基準のものでも一般的に耐震性は高いと考えられますが、マンションの実際の耐震性能は、躯体・材料の劣化、火災・地震等の被災による構造の劣化、改修工事の実施等により、建設時に保有していた初期性能よりも低下していることがありますので、中低層壁式構造のマンションでも耐震性を確認しておくことは重要です。

・耐震性の評価は、大きくは、次の二つの考え方があります。

@建築物の耐震改修の促進に関する法律に基づく「特定建築物の耐震診断及び耐震改修に関する指針(平成7年12月25日建設省告示第2089 号)」第1に定める耐震診断による方法(構造耐震指標Is≧0.6 かつ保有水平耐力による指標q≧1.0)。

A建築基準法施行令第82条の2に規定する層間変形角が同条の規定に、施行令第82条の3第1号に規定する剛性率が同号の規定に、施行令第82条の3第2号に規定する偏心率が同号の規定にそれぞれ適合することにより判定する方法。

耐震補強の方法

・耐震性能の不足の要因としては、@耐力の不足、A靱性の不足、B剛性のバランス不良、C材料の劣化・不良などが考えられます。耐震補強はこうした耐震上の弱点を解消するように行いますが、住宅としての機能や用途の保持、施工条件等にも考慮して、最も適した手法・工法を選定することが重要です。

・耐震補強により構造躯体を補強する場合の考え方としては、@建物の耐力(強度)を高める「強度型補強」、A建物の靱性を高める「靱性型補強」、Bせん断破壊等が生じる恐れのある「極脆性部材の解消」、とがあります。

1.強度型の耐震補強を行う

・強度型補強とは、建物の強度を高める方法で、水平耐力そのものが低い建物、水平変形が期待できない建物、大きな水平変形を生じさせてはいけない建物等に適用されます。

・強度型補強の方法としては、耐震壁(鉄筋コンクリート壁又は鉄骨ブレース)の増設、開口部の閉塞、既存耐震壁の増打ち等があります。


2.靱性型の耐震補強を行う

・靱性型補強は、建物の靱性(水平変形能力)を高くして、地震エネルギーを吸収させることにより、建物全体としての耐震性能を向上させる方法です。

・靱性型補強の方法としては、せん断破壊の恐れのある柱への鉄鋼板や炭素繊維の巻き付け、袖壁の増設、増打ちによる柱断面の増強等が一般的です。

 ■強度型補強と靱性型補強の特徴

 

A.強度型補強

B.靱性型補強

概要

・建物の耐震性能のうち強度を高くして、地震エネルギーを吸収させる方法。水平耐力そのものが低い建物、水平変形が期待できない建物、大きな水平変形を生じさせてはいけない建物等に対して用いられます。

・建物の強度を高める方法としては、耐震壁(鉄筋コンクリート壁又は鉄骨ブレース)の増設、開口部の閉塞、既存耐震壁の増打ち等の方法があります。

・建物の耐震性能のうち靱性(建物の粘り強さ)を高め、強度をあまり落とすることなく水平変形能力を高め、地震エネルギーを吸収させる方法。

・建物の靱性を高める方法としては、せん断破壊の恐れのある柱への鉄鋼板や炭素繊維の巻き付けや袖壁の増設、増打ちによる柱断面の増強等の方法が一般的です。

実施条件・居住性への影響等

・外壁面の補強は、外観デザインに大きな影響を与えるため、外観のデザイン改修・外装材改修等が必要になることがあります。

・耐震壁の増設や開口部の閉塞は、住宅としての用途や使用勝手に大きな影響を与える場合があります。

・既存耐震壁の増打ち補強により、居室面積が小さくなる。また、補強部位が柱又は梁の断面幅内に収まる必要があります。

・柱のせん断補強は、袖壁・垂壁・腰壁の存在により補強が難しい場合があります。柱廻りに設備配管がある場合は改修範囲が広がります。

・梁のせん断補強は梁廻りに天井・設備ダクト等が近接している場合には難しい場合があります。

・個々の柱・梁部材を補強するため、工事範囲が建物全体に及びます。


3.極脆性部材を解消する

・新耐震基準以前の耐震基準で設計された建物は、地震時の変形能力に配慮した検討が十分に行われていないため、一つの建物に様々な変形能力を持った部材が混在している場合があり、地震時に大きな水平力を受けた場合には、変形の増大に伴って負担力も増大し部材が連鎖的に破壊されるおそれがあります。例えば、外廊下型の高層マンションでは、北側通路側の柱は腰壁・垂壁で拘束された極単柱(例えば、柱の内法高さhoと柱せいDの比率がho/D=2以下)が多く、層間変形角が大きくなり、極脆性的なせん断破壊が生じるおそれがあります。

・建物内に、こうした極脆性部材が存在する場合には、その解消を図る必要があります。

建築基準関係規定上の手続き

・耐震補強は原則確認申請が必要となりますが、炭素繊維による補強の場合は不要です。

・なお、耐震診断の結果を踏まえ、耐震改修を行おうとする建築物の所有者は、建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)に基づき、耐震改修計画について所管行政庁の認定を受けることができます。認定を受けると、建築基準法の既存不適格建築物に係る制限の緩和、耐火建築物に係る制限の緩和等を受けることができます。また、この認定手続きを行うことにより、建築確認の手続きが不要になります。

 ■主要な耐震補強工法の概要

 A.強度型補強

耐震壁による開口部等の補強工法

@増設壁による補強

・開口部廻りの既存骨組み内に耐震壁や袖壁等を新設し(既存躯体の四周面にあと施工アンカーを打設し、割裂補強筋を配して一体化を図る。)、主に建物の水平耐力を増大させる工法。建物の荷重は重くなるため、基礎の支持力に余裕があることが条件となります。

A増打ち壁による補強

・既存の薄い壁を増し打ち(既存躯体の四周面にあと施工アンカーを打設し、割裂補強筋を配して新旧コンクリートの一体化を図る。)で補強する工法。耐力の増大とともに変形能力も改善できます。建物の荷重は重くなるため、基礎の支持力に余裕があることが条件となります。

鉄骨ブレースによる開口部等の補強工法

B枠付き鉄骨補強

・鉄骨補強部材(X型・K型・マンサード型ブレース)の周辺に鉄骨枠を配し、既存躯体に樹脂アンカーを、鉄骨枠にスタッドを配して、躯体と鉄骨枠を高強度・高流動モルタルで緊結する工法。鉄骨補強部材を既存躯体に組み込むことにより、鉄骨部材特有の荷重歴特性を有する耐震性能に改善されます。

・コンクリート壁補強より荷重は軽くなり、補強に伴う重量増加を避けたい場合や、補強部材を配置する部位に開口部が必要な場合に適しています。

C鉄骨接着工法補強

・鉄骨補強部材の周辺に鉄骨枠を配し、既存躯体と鉄骨枠の間に20o程度の隙間を取り、間にエポキシ樹脂を注入して接着させる工法。鉄骨補強部材を既存躯体に組み込むことにより、鉄骨部材特有の荷重歴特性を有する耐震性能に改善されます。

・コンクリート壁補強より荷重は軽くなり、補強に伴う重量増加を避けたい場合や、補強部材を配置する部位に開口部が必要な場合に適しています。

D外付け鉄骨補強

・鉄骨ブレースを建物の外側に配して補強する工法。既存柱に接する梁端部に孔をあけ、H形鋼の定着台をPC鋼棒によって仮止めし、定着台と梁裏面の隙間に目地モルタルを施し、鋼棒にはポストテンションを加えた上で、定着台の底面に異形鋼のピースを溶接し接着させます。

・鉄骨ブレースを建物の外側に配する工法であるため、建物内部の動線や機能を阻害することがなく耐震補強が可能となります。


 ■耐震補強の事例


 B.靱性型補強

柱の補強

E角形・円形鋼板による補強

・薄型の角刑又は円形の鋼板を柱に巻き立て、溶接で一体化し、柱身と鋼板の隙間に高流動モルタルを充填することにより、柱の耐震性を増強させる工法。通常は柱脚部にスリットを設けませんが、曲げ耐力の増大を避けるためにスリットを設ける場合には、繰り返し荷重時に充填モルタルが剥落しないように処置する必要があります。

・雑壁が少なく純ラーメン系の建物でせん断柱が多い場合や第2種構造要素(その部材が破壊しても建物全体として水平力には対抗し得るが、その部材の破壊によりその部材がそれまで保持していた鉛直力を代わって支持できる部分がその部材の周囲にない鉛直部材又は架構)の柱がある場合に適しています。

F帯鋼板による補強

・柱の四隅にL字型のアングル材を建て込み、これに帯板を溶接して裏側にモルタルを充填することにより、柱の耐震性を増強させる工法。

・雑壁が少なく純ラーメン系の建物でせん断柱が多い場合や第2種構造要素の柱がある場合に適しています。裏込めモルタルの施工性に難点があり、恒久補強としては美感上の制約があります。

GRC巻立て柱補強

・既存柱の外周部を100〜150o程度の厚さの鉄筋コンクリートで巻き立てて補強する工法。スリットを設けずに柱断面を増大させ、主筋をスラブに貫通させて上下階を連続させる部材配置とし、柱の曲げ耐力、せん断軸耐力を増大させます。

・建物の荷重はかなり重くなります。

H炭素繊維シート巻付け柱補強

・柱の四隅のコーナー部を半径30o以上の円形に形成し、幅250〜330mmの炭素繊維(炭素繊維に代えて、アラミド繊維による補強工法もあります。)を敷き並べたシートを、エポキシ樹脂を含浸させながら柱の周囲に巻き付けることにより、柱の靱性を補強する工法。

・炭素繊維は鉄の約1/4の重量で、約10倍の引張り強度を有しています。重量物を運搬することなく、少人数で施工が可能で、柱断面寸法や建物荷重をあまり増加させることなく補強をすることができます。ただし、原則として防火被覆を必要とします。

梁の補強

I鋼板接着による梁補

・薄型鋼板の接着補強工法。4.5〜9o厚の薄型鋼板を、剥がれ防止を兼用したあと施工アンカーで仮固定し、鋼板の裏側にエポキシ樹脂を注入して接着させることにより、梁のせん断耐力を増強する工法。

J炭素繊維による梁補強

・梁下端のコーナー部を半径30o円形に成形し、梁のスラブ下側面に定着プレートのあと施工アンカーを配して、炭素繊維シートを張り、梁のせん断耐力を増強する工法。

・重量物を運搬することなく、少人数で施工可能ですが、原則として防火被覆を必要とします。


 C.極脆性部材の解消

極脆性柱部材の解消

K耐震スリット新設工法

・腰壁・垂壁で拘束された極単柱について、垂壁、腰壁をコンクリートカッターで切断して耐震スリットを設ける工法。

・水平耐力が低下することや、サッシなどに拘束力が残っていることに配慮する必要があります。また、外壁の止水性能や耐火性能の対策についての検討も要します。

L極脆性部材の袖壁補強

・腰壁・垂壁で拘束された極単柱について、柱に剛強な袖壁を付加することにより、架構の破壊モードを柱破壊から梁破壊に変化させて耐震性能を向上させる工法。

・耐力と変形能力がともに向上するため、効果的な補強となりますが、開口部の面積が減少し居住性などに影響を及ぼすことがあります。

(三木哲「耐震性向上のポイントと改修方法(建築知識2000 年8 月)」をもとに作成)


(5) エレベーターの設置

・高経年マンションでは、4〜5階の中層マンションにエレベーターが設置されているものはほとんどないと考えられますが、近ごろの新築マンションでは、中層の場合でもエレベーターが設置されるようになっています。居住者の高齢化に伴い、中層マンションにエレベーターを設置(増築)するニーズが、今後高まることが予想されます。

・なお、外廊下型住棟への設置の場合と階段室型住棟への設置の場合とでは、エレベーターの設置方法や難易度が異なります。


(5)−1 外廊下型住棟へのエレベーターの設置

エレベーター設置の方法

1.既存階段室踊り場に着床するエレベーターを設置する

・外廊下型住棟については、既存の共用廊下の中間や端部の位置にエレベーターを設置する方法となります。設置位置は敷地条件やアプローチとの関係により決まります。

・この設置方法は、既存の共用廊下に着床させることができるため、階段室型住棟よりも設置が容易であり、大規模マンションでない限り、1基の設置で足りる場合が多いと考えられます。このため、戸当たりの設置費用(イニシャルコスト・ランニングコスト)は相対的に少なくて済みます。マンションでの設置事例は多くありませんが、公共賃貸住宅では数年前より順次設置が進んでいます。

・エレベーターの設置位置については、廊下に面した住戸の採光・通風・プライバシー・開放性や老化の法的開放性(消防法の会報廊下規定)、1階でのアプローチ動線、隣地や隣接建物への影響度を考慮して決める必要があります。


(5)−2 階段室型住棟へのエレバーターの設置

エレベーター設置の方法

・階段室型住棟へのエレバーターの設置の方法としては、次のようないくつかの方法が考えられますが、それぞれメリット・デメリットがあります。

1.既存階段室踊り場に着床するエレベーターを設置する

・折れ階段形式の階段室型住棟への最も一般的なエレベーターの設置方法は、エレベーター出入口が階段室の2階以上の踊り場に着床する方式となります。

・階段室型集合住宅向けに、低コストでコンパクトなエレベーター及びエレベーターシャフトが開発され、供給が開始されています。居住したまま工事ができ、また相対的に設置が容易であるというメリットがあり、公営住宅等では設置事例が見られるようになっています。

・しかし、エレベーターの出入口が折れ階段の踊り場に着床するタイプとなるため、住戸玄関までは半階分の階段の昇降が必要となり、完全にバリアフリーとすることはできません。


2.階段室北側にポーチを増築し増築ポーチに着床するエレベーターを設置する

・一階段室の北側にポーチ(エレベーター出入口と各住戸玄関をつなぐ短い廊下)を新設し、ここにエレベーターが着床するように接続する方法です。エレベーター利用のためにポーチに面した箇所に新たな玄関を設け、既存玄関は勝手口、既存階段室は避難階段などとして利用することになります。

・エレベーター出入口と住戸玄関が同じレベルでバリアフリーを実現できますが、ポーチの増築を必要とするため、イニシャルコストは高くなります。また、住棟北側への増築部分が大きくなるため、敷地条件(北側の空地)に余裕があり、容積率、建蔽率、日影規制その他の法規制をクリアすることができる等の敷地条件に恵まれていることが実現条件となります。


3.住棟北側への廊下の増築+増築廊下着床型

・住棟北側全面に廊下を増築し、この廊下の中間や端部にエレベーターが着床するように接続する方法です。エレベーター利用のために廊下に面した箇所に新たな玄関を設け、既存玄関は勝手口、既存階段室は避難階段などとして利用することになります。

・公営住宅には、このようなエレベーターの設置を行った事例があり、技術的には可能です。

・バリアフリーを実現することができ、エレベーターは一棟に1基でよいため、ランニングコストは割安になるというメリットがあります。しかし、住棟北側全面に廊下を増築(廊下の増築部分は耐火構造にする必要があります)するため、イニシャルコストが相対的に高くつき、外観も大きく様変わりします。住棟北側の敷地に余裕があり、容積率、建蔽率、日影規制その他の法規制をクリアすることができることが実現条件となります。

・なお、住棟北側の敷地にあまり余裕がない場合は、既存の階段室の一つをエレベーター室に改造し、住棟北側に増築した外廊下に着床させるという方法も考えられます。


 ■階段室型住棟へのエレベーター設置の事例



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