第4章 改修によるマンション性能の総合的改善


4.1 改修によるマンション性能の総合的改善

・経年に伴うマンションの老朽化や陳腐化の対策として、第2章では、大規模修繕等の計画修繕にあわせて既存性能をグレードアップする改良工事の方法について述べました。また、第3章では、増改築等により新たな性能・機能を付加する改良工事の方法について述べました。

・一方、マンションの質及び価値を効果的に再生するためには、修繕工事と、第2章及び第3章で述べた改良工事とを計画的に組み合わせた改修工事を実施し、マンションの性能を総合的に改善することが望まれます。


4.2 必要とされるマンション性能の総合的改善の内容

・マンション性能を総合的かつ効果的に改善する上では、マンションの現況の性能や区分所有者の具体的なニーズに基づき、必要とする改修工事の内容を決定することになりますが、昨今の社会的な状況等を踏まえ、今後、高経年マンションに一般的に必要になると考えられる改修による性能改善の内容を整理すると、次のようなものが想定されます。

(1)耐震性能の総合的改善
(2)バリアフリー性能の総合的改善
(3)防犯(セキュリティー)性能の総合的改善
(4)省エネ・エコロジー性能の総合的改善
(5)情報通信水準の総合的改善
(6)建物生活空間の総合的改善
(7)屋外環境の総合的改善

・本章では、修繕工事と、第2章及び第3章で述べた具体の改良工事を組み合わせることにより、上記の性能を総合的に改善する改修方法について取りまとめを行います。


(1) 耐震性能の総合的改善

・耐震性能の改善は人命保護の観点から最も重要な検討課題であると言えます。マンションの耐震性能は、建設当時の耐震基準が現行の基準に比べて劣っている場合や、躯体・材料の劣化、火災・地震等の被災による構造の劣化等により建設時に保有していた初期性能よりも低下して現われている場合などがあります。このため、建物の耐震性能を改善するためには、建物躯体の劣化修繕工事を計画的に実施することを前提として、建物の耐震診断を行い、耐震性能が不足する場合は耐震補強を行うことが重要となります。

・一方、地震時の避難の移動安全性や大地震後の生活の速やかな復旧に向けた事前対策をあわせた総合的な対策も必要となります。建物躯体の耐震補強に加えて、大地震直後にマンション居住者が安全な場所へといったん避難する際に、住戸ドア、共用廊下・階段、バルコニー、屋外避難階段、エレベーター等の避難経路を安全かつ容易に移動できるようにしておく必要があります。例えば、住戸ドアを耐震ドアに取替えること、共用廊下・バルコニー等の片持ちスラブの保全・補強をしておくこと、屋外(鉄骨)避難階段の保全・補強をしておくこと、エレベーターを地震時に最寄り階に停止させドアを開くタイプのものに取替えておくこと、エレベーターシャフトの耐震補強をしておくことなどが必要となります。

・また、大地震等の災害時には、給水・ガス・電気等のライフラインは一旦供給を停止し、点検と(必要に応じて)簡易な補修により設備機能が速やかに復旧される必要があります。受水槽、高架水槽、給湯器(貯湯式)等の耐震対策を行うことや、ライフラインが供給停止となる事態に備え、大規模団地の場合では井戸を掘る等の水の確保をしておくことも考えられます(敷地内に深さ50mの井戸を掘った団地もあります)。井戸水は、災害時にライフラインが停止した際の団地居住者の生活用水のほかに、大規模修繕工事の際には大量に必要となる高圧水洗水として、さらに日常的には団地内の植栽への水やりや夏季の子供の水遊びなどにも利用できます。


(2) バリアフリー性能の総合的改善

・かつてのマンションではバリアフリー性能はほとんど考慮されていませんでしたが、高経年マンションでは居住者の高齢化も進んでいることから、マンションの建物及び敷地内を障害なく安全かつ容易に移動・使用することができるような総合的なバリアフリー対策を行うことが今後ますます重要になると考えられます。

・建物共用部分(エントランスホール、エレベーターホール、共用廊下・階段室等)に加え、敷地内(構内道路、歩道、住棟前通路からエントランスホール、階段室入口等の住棟入口まで)についても、既存の段差・階段差の解消(擦付け、スロープ設置、段差解消機・いす式昇降機の設置)及び手すりの設置を行います。また、エレベーターのない低中層の建物にエレベーターを新設したり、エレベーターを増設したりすることも重要となります。

・段差解消や手すりの設置に併せて、共用階段・廊下、スロープ、歩道等の仕上げをノンスリップ材に変更することや、階段の段差部分について段鼻部分の明るさや色を他と変えて区別しやすいようにし、床面の照度を十分に確保すること、住棟エントランスの扉の開閉を容易にするため、開き戸よりも引き戸、さらには自動ドアへと変更工事を行います。

・また、既存の集会所等の共用施設についても、アプローチ部分へのスロープや手すりの設置、出入口ドアのオートドア化、玄関ホールの壁面や便所等への手すり設置、和室の洋室化、下足方式への変更(靴の脱着なし・上框なし)、集会所内便所への緊急警報装置の設置、車イス仕様の便所の設置等のバリアフリー改善を行うことが考えられます。


(3) 防犯(セキュリティー)性能の総合的改善

・建物に侵入して行われる犯罪は、近年急速に増加しており、特に共同住宅(マンション)での被害が深刻化しており、防犯性能を向上させることが重要となってきています。防犯は、マンションの一部だけに対策を講じても効果は大きくありません。マンションの建物及び敷地内全体について、不審者の侵入の防止や犯罪抑止のための対策を総合的に講じることが望まれます。

・建物の防犯対策としては、建物の全ての出入口のオートドア化やエントランスホールの2重化等により不審者の侵入を防止すること、建物内の見通しの確保や適切な照度の確保等により住棟内での犯罪を抑止する措置を講ずることが重要となります。また、各住戸ドアの錠のピッキング対策、住戸窓の防犯ガラス化、面格子の設置等を行います。

・駐車場の車上荒らしや屋外での痴漢等のマンション敷地内での犯罪を防ぐために、駐車場や屋外の防犯対策も必要となります。駐車場スペースは、敷地内のできる限り目の届きやすい位置に設け、オートロック型ゲートや人感センサー付き照明器具を設置することが考えられます。また、敷地内の自転車置場、オートバイ置場、駐車場、児童遊園などは、道路やエントランス又は居室の窓からの見通しを確保すること、樹木の生長コントロールと併せた屋外照明の増設や適切な照度の確保等の防犯灯機能を強化することなどが考えられます。

・また、エレベーターホールやエレベーターかご内等の建物共用部分や屋外駐車場等において、防犯上必要な見通しの確保が困難な場合には、防犯カメラの計画的設置と24 時間監視システムにより、見通しの補完や犯意の抑制をねらうことが望まれます。


(4) 省エネ・エコロジー性能の総合的改善

・地球環境問題に対する関心が高まっており、省エネによりエネルギーの効率的利用を図ることが重要な課題となってきています。マンションにおいて省エネを実現するにあたっては、第1ステップとして、建物躯体の劣化修繕工事を計画的に実施することを前提として、外壁の外断熱化、屋根の外断熱化、サッシの2重化等により建物の断熱性能を高めることが基本になります。また、ソーラー発電により集めた電気を屋外灯、門灯等の共用部分の照明などに利用することが考えられます。ソーラー発電は屋根の上に設置した太陽電池(太陽の光エネルギーを吸収して電気に変えるエネルギー変換のことをいいます。)で電気を発電し、発電した直流をパワーコンディショナ(太陽電池で発電した電力を直流から交流に返還する装置)に通して分電盤に接続することにより、電力会社と同じ交流に変換し電気を供給します。システム容量(太陽電池モジュールの公称最大出力×枚数)は設置方位、面数、傾斜にもよりますが、5kw・10kw程度まで可能です。 また、発電量は地域や太陽電池の方位、傾斜角度等により異なりますが、太陽電池モジュール1kwシステム当たり年間約1,000kwh程度の発電が期待できます。

・さらに、第2ステップとして、建物をパッシブソーラー化することが考えられます。パッシブソーラーとは、建物そのもののエネルギー効率を高め、建物に空気の循環を起こすことにより、昼間にたくわえた太陽熱を夜の暖房に利用したり、夜間の涼しい空気で日中の暑さを和らげたりすることにより、自然エネルギー等を効率的に利用するシステムです。

昼(放冷・放熱)

 床下の換気口から風や外気を積極的に取り入れ、温度の低い空気が非日射面の壁、屋根裏、床下をつなぐエアサイクル層(空気層)へ送られ、建物内にこもった熱は外部に排出されます。

夜(集冷・蓄冷)

 屋外の涼しい風や夜間の涼気を床下換気口から積極的に取り入れ、エアサイクル層を循環させます。このとき床下の砕石等に冷気を蓄え、この冷気は昼間の温度上昇時に放たれ建物の温度を下げるのに利用されます。

昼(集熱・蓄熱)

 外壁のエアサイクルパネル内の空気が太陽熱で暖められ、この空気がエアサイクル層を循環して建物全体を暖めます。また、床下の砕石等に熱を蓄えます。

夜(放熱・断熱)

 砕石等に蓄えられていた熱が放熱されてエアサイクル層を暖めます。その輻射熱と高い断熱性により全室暖房を可能にします。

・マンションをパッシブソーラー化するための具体的な方法として、次のような方法が考えられます。

@屋根はソーラー(太陽光)パネル化し、熱エネルギーを集めます。

Aバルコニーもサンルーム化し、集熱・蓄熱空間とします。

B外壁にはエアサイクルパネルを設置し、集熱・蓄熱空間とし、躯体とパネルの間に空気循環ができる仕組みとします。

C床下も砕石等を利用した集熱・蓄熱、集冷・蓄冷空間(サーマルマス空間)とします。

・なお、建物のパッシブソーラー化に併せて、建物廻りの緑化環境等を整備し、エコロジカルな環境を作り出すことが考えられます。住棟南側に落葉樹を配置することにより、夏期は緑陰を形成し、冬期は直達日射を住戸によびこみ、適当なサンコントロールが期待できます。また、樹林を形成することで、大地の温度や湿度の安定化をはかることも期待できます。また、池を配置しビオトープ的な環境を敷地内に形成することで、夏期の自然風の温度を低下させることも期待できます。


(5) 情報通信性能の総合的改善

・住宅設備の進歩・普及には著しいものがありますが、特に最近、情報通信設備の発展にはめざましいものがあります。マンションでの生活をより便利で快適なものにし、マンションの価値を高めていくためには、高度な受信を実現できるテレビ共聴設備の配線システムの改善、CATV・光ファイバーの導入によるインターネット接続環境の整備、インターホン設備や放送設備の導入など、情報通信設備性能の改善を総合的に図ることが重要になると考えられます。

・一方、少子高齢化や情報技術の進展を受けて、各情報通信設備は複合化しつつあり、今後さらに複合化や高度化が進んでいくことになると考えられます。例えば、安全性・快適性・利便性・経済性等の高い生活水準を実現するための自動制御システムとして、@ホームセキュリティー、Aホームコントローラー、Bコミュニケーション、Cマルチメディア、などのホームオートメーション設備が進展しつつあり、今後はより総合的かつ複合的な情報通信設備の改善が求められるようになっていきます。

・ホームセキュリティー設備として次のような複合的な設備があります。

火災・ガス漏れ通報設備

・センサーが火災やガス漏れを感知すると、住戸内の住宅情報盤(インターホン親機)から確認が出され、火災が確定すると住宅情報盤とドアホン子機から警報が発せられます。同時に、管理事務室の警報監視盤に火災確定信号が入り、共用部のスピーカーと出火階・直上階の住宅情報盤から出火場所を知らせる警報が鳴動します。

防犯通報設備

・防犯センサーをバルコニーサッシや玄関扉に取り付け、窓や扉がこじ開けられた時に住宅情報盤で信号を受信し、警報監視盤に報知します。侵入監視警戒のセットと解除が住戸玄関のドアホン子機で操作できるタイプもあります。

生活異常通報設備

・マンション居住者の高齢化に対応して、生活異常通報機能を備えたシステムも用意されています。非常用コールボタン、水量センサーや熱線式人体感知センサー等で高齢者の生活異常を察知し、LSA(生活援助員:Life Support Adviser)室の警報監視盤に通報します。同時に、登録しておいた外部連絡先にも自動通報され、異常住戸とハンズフリー通話ができます。

・ホームコントローラーは、エアコン、換気扇、照明等のON-OFFや、給湯器からの浴室のお湯張りなどをリモートコントロールするシステムであり、住戸内から操作するタイプに加え、外出先から電話回線により操作することができるタイプもあります。

・コミュニケーション設備には、インターホンの導入にあわせて音声と映像を使って、管理事務室からのメッセージや管理組合からの電子回覧板や電子広報誌などを配信するシステムがあります。また、宅配ボックスの設置に併せて、着荷信号を警報監視盤が受信し、住宅情報盤や集合インターホンに着荷表示する連動システムの導入も考えられます。

・CATVの双方向デジタル化、光ファイバー等のブロードバンドの整備に併せて、ホームオートメーションシステムの住宅情報盤がパソコンに代わってインターネットの端末として活用できるようになります。


(6) 建物生活空間の総合的改善

・マンションでの生活を豊かにするためには、建物内の生活空間を時代に合わせて再構築することが重要となります。劣化・損傷箇所の修繕工事を適切に行い、躯体を健全に維持することを前提として、専用部分の生活空間の拡大、共用スペースの拡充、共用部分の質的改善、用途の部分的な変更等を総合的に行うことで、長く住むことができる豊かな生活空間へと再生し、マンションの価値を高めることが重要になると考えられます。

・専有部分の住戸面積が現在の住宅水準からみて小規模で限られた面積の住戸タイプしかない高経年マンションでは、子育て期のファミリー世帯が定住できずバランスのとれたコミュニティーの形成に支障が出ることがあります。このため、居室の増築や、空き家が増加している建物では住戸の2戸1戸化等により、生活空間を拡大し多様な面積の住戸を生み出すことが望まれます。こうした住戸規模の拡大に併せて洗濯機置場を屋内に設置することや、住戸の2戸1戸化等の住戸規模の再編に併せてエレベーターの増築を組み込むことも考えられます。

・また、風除室、宅配ロッカー、トランクルーム・共用倉庫、ラウンジ、プレイルーム、集会室、宿泊施設、管理事務室、駐車場・駐輪場等の共用スペースを、建物周囲の空き地を利用して増築することや、設備機器の小型化や設備システムの変更・廃止等により建物内に余ったスペースや空き住戸を利用して整備することが考えられます。特に、各住戸面積の拡大が難しい場合には、それを補完する意味でも共用スペースの拡充は検討に値します。

・また、商業・業務用と居住用の用途複合マンションにおいて、店舗やオフィスとしての用途が現在の地域の床需要にマッチしなくなってしまっている場合、既存マンションの空店舗・空オフィスを他の有用な共用スペースや住戸・SOHO等に用途変更(コンバージョン)することも考えられます。

・なお、共用スペースの整備に併せて、マンションの「顔」とでも言うべきエントランスホール及びエントランスへのアプローチ部分の仕上げ材料やデザインのグレードアップ、集合郵便受けや掲示板等の金物類や照明器具の材料・性能・デザイン等のグレードアップ、外観の仕上げ材の性能・デザイン等のグレードアップなどの化粧直しを併せて行うことが、マンションの価値を高める上で重要となります。


(7) 屋外環境の総合的改善

・マンションの建物内の生活空間の改善に加えて、屋外環境も総合的に改善することで、マンション敷地内での生活を便利にするとともに、視覚的イメージを改善し、マンションの価値を高めることが重要になると考えられます。

・敷地内道路・歩道・広場・駐車場等の舗装部分のバリアフリー性・デザイン性・材料(ノンスリップ性、浸透性等)の向上、外構工作物の耐久性の向上を目的とした材料の向上やデザイン性の向上、屋外灯の増設及び材料・デザイン性の向上、居住者の年齢構成に応じた公園・プレイロットの計画的見直し、ゴミ置場の整備、樹木の生長障害を解消するための樹木・植栽の間伐・再配置や駐車場の緑化工事等を総合的に行うことが重要となります。

・また、葬送儀礼や各種サークル活動等に利用できる集会所・コミュニティーセンターの新築・建替え・増築・改造、駐車場ニーズに応じた駐車形式の変更や駐車場の増設、バイク置場・自転車置場の増設、給水システムの変更等により不要となった施設跡地の活用等による共用施設の建設や広場の整備など、共用施設の建築工事等も同時に行うことが考えられます。



 Homeへ戻る    目次へ   次へ